やわらかくはない。だけど、嘲笑とも違う。ただ、なにかを完全に理解した静かな笑みだった。

「庇う?」
「そりゃあ、同期のよしみだからさ。でもけっきょくお前、なにも言わずに辞めただろ。だから上も、ほかの関係者全員も納得いかないまま、なんとなく幕引きするしかなかった。お前のそういうところが周りの迷惑になってたことくらい、いい加減理解しろ」
西(にし)()。お前は口が達者で、プレゼンがうまくて、根回しが得意だったな。その器用さがいつもうらやましかったよ」
「なんだよ、急に」
「けどお前、データの扱いだけは雑だったな」

 リング男あらため西田の顔から余裕が失われたのが、私からでも見えた。




 逃げるように西田が走り去り、吉見さんが心底疲れた顔で深いため息を吐く。
 それからなにげなくこちらを見て……目をみはった。

「目白さん? なんでここに」
「えっと、たまたま? たまたま! この近くに用があって。帰ろうとしたら、吉見さんがその店から出てくるのが見えて……」

 私は偶然を装って吉見さんに近づいたけれど、途中で言葉を切る。

「うそ、ごめん。吉見さんの様子が気になって待っていたの」

 目をみはった吉見さんが、気まずそうに目を逸らした。

「……駅まで送る」
「あの! 帰れって言われたのに待っていたのはごめん。さっきの会話をちょっと聞いちゃったのもごめん。でも、もしなにかつらいことがあるなら――」
「行こう。荷物貸して」

 言い終えるより先に、書類の詰まったショルダーバッグを取りあげられる。吉見さんはそのまますたすたと歩きだした。

「吉見さん!」
「……」
「ねえ。ねえってば! 吉見さん」

 吉見さんは私をふり返らない。
 私もその背についていくけれど、一向に追いつけない。
 吉見さんって、こんなに歩くの速かったっけ。
 違う。これまで私の歩調に合わせてくれていたんだ。