「えっと……(たか)(とり)設計事務所の目白と申します」
「へえ、鷹取か。規模は小さいけど、悪くないところだよな。でも今でもときどき思うよ。お前がうちに残ってたらって。ほんとう、もったいなかったよな。あの件は」

 顔をさらに強張らせた吉見さんと反対に、リング男がしみじみと続ける。

「せっかく再会したんだし、メシでもどう? お前の近況、詳しく聞かせてくれよ。目白さん、こいつ借りてもいいよね? てか、目白さんもなかなかかわいい顔してるよね。目白さんもメシ一緒にど――」
「彼女は無理だから」
 リング男の語尾に被せて吉見さんが鋭く言い放ったとたん、私の心臓が大きく跳ねた。 
 しかも吉見さん、言いながら私の前に体を滑りこませてきた。でも、どうして。
 あれやこれやと理由を想像するも、わけがわからない。
 ううん、それより「あの件」ってなんだろう。もったいなかったって?
 吉見さんはふだんもそっけないけれど、ここまであからさまに剣呑な態度を見せるのは初めてだ。

「へえー。名前までかわいいのに残念だな。じゃ、ふたりで再会を祝うとするか」

 なにが残念なのかと思うより先に、吉見さんが手振りで私を遠ざけた。

「悪いけど、先帰って。また明日」

 なんだか、ただならぬ雰囲気だ。不穏な雰囲気がひしひしと伝わってくる。
 動かない私に焦れたのか、吉見さんがふたたび私を手振りで追いやる。私がいると不都合なのかもしれない。
 おとなしく引き下がると、ふたりの足音はやがて遠くなる。
 こっそりふり返って見た吉見さんの背中は、いつになく強張っていた。