私は別の店舗に通っているので、インストラクターの彼女は日によって勤務する店舗が変わるのだろう。

「なんて、まだ二ヶ月経ってないけどね。こう、美味しいものをたくさん食べているうちに、お腹周りとか気になってきたんだよ……」

 きっかけは先日、施工業者を訪問する道すがらジムを見つけたこと。
 いつもなら、ジムに通おうかななんて思いつつも、けっきょくまたいつかと思ってやめてしまう。けれどそのときは、なんか……通おうって、ふしぎなほどすんなり思って。
 仕事上がりの夜、自宅近くの店舗に駆けこんだ。

「目白さんって、行動力あるな」
「えっ、ジムだよ? 危機感に突き動かされただけだよ?」

 しかも、華奢で笑顔も満点な花梨ちゃんが頭に浮かんだからで。

「クライアントんとこ何度も行ってメモ取ってきたときも、一生懸命だと思った」

 そう言われると照れくさい、けど嬉しい。
 変わろうとする力をくれたのは、間違いなく隣のひと。けれど、そう口にしたら重いかと思ってやめる。

「まずは、三日坊主にならないように頑張るよ」
「じゃ、そのうち成果報告して――」

 言いかけた吉見さんの足が止まった。

「吉見さん?」

 オフィスビルの立ち並ぶ通りで、吉見さんの視線が遠くに向けられていた。私はその視線の先を目で追って、ピンときた。
 周囲よりひときわセンスを感じる、二軒先のモダンなオフィスビル。あの建物、吉見さんが前に勤めていた設計事務所だ。
 ちょうど、スーツをきちんと着こなしたビジネスマンが三人、ビルを出て私たちのほうに歩いてくる。
 手には大日設計のロゴの入った紙袋。これからクライアントを訪問するところなのかも。

「悪い、寄るところがあったんだった。ひと筋手前まで戻っていいか?」

 吉見さんが私をふり返ると、私の返事を待たずに来た道を引き返す。これまでにない硬い声、険しい顔。