仕事やクライアントに対する、誰より真摯な態度とか。相手を自分の物差しで計らず、尊重する姿勢とか。相手の心を汲み取って動く優しさとか。そういうの。
 吉見さんのそういうよさを、花梨ちゃんも気づいてしまった……んだよね。って、だめだ。
 この前から、花梨ちゃんの姿が頭をチラついて離れない。それもきっと、花梨ちゃんが吉見さんに「いく」なんて言ったからだ。
 あれからふたりの仲がどう進展したのか、どうしても気になってしまう。尋ねたら、吉見さんは答えてくれるかな。
 ああ、いけない。仕事中、仕事中。
 私は心持ち早足で、業者のオフィスへと足を早める。だけどあるものが目に留まったとたん、ひとつ思いついた。
 



 着工前の地鎮祭が近くなった、十一月の下旬。吉見さんと、クライアントに工事のスケジュールを含めた詳細を報告した帰り道だった。
 歩きながらストールを巻こうとして違和感に気づき、私は立ち止まった。ピアスがストールに引っかかったみたい。
 無くす前に気づいてよかった、と私はごく小さな星形の石が揺れるピアスを慎重に外す。
 そうしながら通り沿いの建物をなにげなく見やったとき、引きしまったボディを惜しげもなくさらした女性と窓越しに目が合った。

「あ」

 私が気づいたのとほぼ同時に向こうも気づいたようで、ひらひらと手を振られる。
 私も軽く会釈をしたら、吉見さんも女性をちらりと見た。

「知り合い?」
「ううん、私今ここのジムの系列店に通ってるの。さっきのひとは、私のインストラクターなんだ」

 ピアスを手にしたまま言うと、吉見さんが店舗にふたたび目をやった。
 ジムは一面が総ガラス張りになっており、ずらりと並んだマシンでトレーニングをこなす人々がちらちらと見えている。
 平日の定時を過ぎたころだからか、ビジネスマンふうの男性の姿もある。