私たちのプランが採用されたことで、事務所は一気に目が回るほど忙しくなった。
 吉見さんが詳細な設計図面一式を設計図書にまとめる一方で、私はクライアントとル・ポワン新設工事契約書を無事に取り交わした。と、ここまででひと月。
 その後、役所に着工許可をもらうための確認申請の書類も提出して、さらにひと月余り。
 十一月初旬になってようやく、確認申請が通った。

「いよいよ着工だね。ついにここまで来たなんて、感慨深いな。吉見さんは慣れてるだろうけど」
「いや。文化財に比べると確認申請を通るのがめちゃくちゃ早くて驚いた。かえって不安になる」

 吉見さんが前職で最後に手がけたのは、大正時代に建てられた登録有形文化財の改修工事だったそうだ。
 それはたしかに、着工許可が下りるまで時間がかかりそう……。
 とはいえ、ル・ポワンの工事も着工が年末にさしかかるので、業者の手配などが厳しいのには変わりなかったけれど。
 これから、その施工業者との顔合わせだ。
 吉見さんとふたり、最寄り駅で電車を降りる。とたん、秋の冷たく乾いた風に首をすくめた。
 今年は寒さが厳しくなるとニュースで見たから、私もそろそろジャケットの上に羽織るものを用意したほうがいいかもしれない。
 なんて思っていたら、吉見さんのほうはほんのり暑そうに手で顔を扇いだ。その手には、設計図書のファイル類を詰めた重そうな紙袋。

「タクシーにすればよかったね。私も持つよ」
「いや、俺ひとりでじゅうぶん。目白さんにはそのコミュ力を駆使して、業者の懐に入るほうを任す」

 紙袋に伸ばした私の手を、吉見さんが優しく遮った。
 一瞬、指先が触れ合って――離れる。
 遅れて、触れた箇所からじわりと熱が広がった。う、わぁ……今のは、まずい。仕事のことも含めて諸々が吹っ飛びそうになった。いけない、仕事中。