一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 吉見さんの様子は変わらない。特にパンケーキが好きそうな雰囲気でもなさそう。急にどうしたんだろう。
 というか吉見さんって、よけいな人付き合いは好きじゃなさそうだったのに。
 仕事が終わったら、いつもまっすぐ帰ってなかった?
 以前よりは、懐に入れてくれるようになった……ということ? そうだったら、くすぐったいけれど。

「俺も喉乾いたし」
「なるほど、今日暑いもんね。うん、じゃあ寄ろう! お疲れ様会しよう」

 さっそく、シャラン、とドア飾りの鳴る音に合わせて店内に足を踏み入れる。
 たちまち甘ったるい匂いが私の鼻腔をくすぐった。

「はああ、匂いが美味しい。南国のビーチが見える……今私、海辺でココナッツジュースを飲みながらパンケーキを食べてる……」
「気が早くない?」

 案内された席は、奥のソファ席だった。それも二人がけのいわゆるカップル席というやつだ。
 あちゃー、と心の内で嘆いて店内を見渡すも、ほかに空席はないらしい。
 一応いい大人なので、こんなことくらいで動揺はしないけれども。……うそ、わりと動揺している。
 ちらっと吉見さんをうかがうも、吉見さんの表情はいつもと変わらない。
 吉見さんにとっては、入った店が女性客ばかりだろうが、案内されたのがカップル席だろうが、些末(さまつ)な問題に違いない。
 そういうのは、相手を意識するからこそ気になるわけで。
 あれ、となにか引っかかったけれど、私は気づかないふりで吉見さんの隣に腰を下ろす。
 座った瞬間こそ気詰まりに感じたけれど、写真が豊富に掲載されたメニューを見たときには、そんな感情は波の彼方にさらわれていた。

「こ、これはテーマパークより興奮するかもしれない……!」

 パンケーキ専門店だけあって、メニュー数が豊富だ。