一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「目白さん、急いで。信号、点滅してる」
「だね!?」

 苦笑して私を追い越す吉見さんに、私も慌ててついていく。
 夏の太陽の魔法は、もうしばらく切れないみたいだ。
 私の耳には、吉見さんがぽつりと「感謝してる」と言ったように聞こえたのだから。



 
 今日はクライアントの都合もあり、休日出勤だ。打ち合わせが終われば、あとは直帰するだけ。
 地下鉄の駅も、もうすぐそこだ。
 吉見さんはJRだっけ、どうだったかな。暑さと吉見さんの一瞬の表情とで頭が溶けそう。
 と、今にも潮風が吹いてきそうな南国調の店が目に入った。
 木目の真新しいテラスには、白いテーブルセットと青のパラソルが並んでいる。
 猛暑の今は誰もいないけれど、気候のよいときには気持ちよく過ごせそう。
 店自体はガラス張りになっていて、大ぶりの葉を茂らせた観葉植物が飾られているのが見える。
 店内もすっきりとした白と青で統一されていて、外から見る限りでは若い女性客が多そうだ。
 これは、美味しいものの予感がする。
 前を通り過ぎながら中をもう一度覗くと、どのテーブル席にも必ずといっていいほど置かれている皿があった。
 パンケーキ専門店だ。
 気づくなり、脳内に甘い妄想が広がっていく。
 舌が痺れるようなホイップクリーム。何枚もタワーのように重なった、ふわふわのパンケーキ生地。
 周りを彩る、さまざまなフルーツにチョコレートソース。はちみつでもいい。ベリーソースもありだなぁ。
 これは間違いなく、休日出勤をした疲れを癒してくれるやつ。
 パンケーキにホイップクリームとソースをたっぷりつけ、フォークを口元に運ぶところまで妄想する。
 ふいに、吉見さんが青いファサードのついたその店を指した。

「目白さん、このあと暇? ちょっと寄っていく?」
「えっ、ここ?」

 店内をちらっと見やってから、私は隣の吉見さんに視線を戻した。