一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「ていうかあの提案は、目白さんのおかげだから」
「なにかしたっけ」
「柳さんに繋いでくれただろ。それに、あのメモも役に立った」
「うわぁ、よかった。少しでも力になれたらって思ったんだ」

 少々照れ臭く思いながら、隣を歩く吉見さんを見あげる。
 うちは基本的に、ラフな格好でも問題ない職場だ。けれど、今日の吉見さんはリネンジャケットを手に持ち、半袖Tシャツにストレートのパンツという出立ち。
 細身のわりに、Tシャツの袖から伸びた腕は意外と逞しい。
 思わず目を引かれる。

「それに、目白さんの食いしん坊のおかげ」
「どういうこと?」

 物言いたげに私を見た吉見さんは、ややあってから「さあ」とだけ返した。
 ほんとどういう意味だろう。からかわれている、とはさすがに思わないけれど。
 横断歩道の信号が赤になる。
 太陽の光があまりに凶暴だからか、休日だというのに車の往来に対して表を歩くひとは少ない。
 吉見さんは手で顔を煽ぎながら、返事の代わりに切り出した。

「初めて、クライアントからパートナーだって言われたな。これまでは業者さん、って認識だったけど」
「いつのまに、廣瀬さんと仲良くなってたの?」
「目白さんがお手洗いに行ってるあいだに」
「えー、私も聞きたかった! ……吉見さん?」

 青信号に変わると同時に歩き出した私は、吉見さんが来ないのに気づいてふり向いた。
 吉見さんが横断歩道の手前で足を止めたまま、私を見つめている。

 だしぬけに心臓がとくんと跳ねた。

 みるみる顔が火照る。え、え、なんで。私は慌てて前を向き頬を叩いた。あれ、私を見てたよね?
 だったらなんで……そんな優しいまなざしなの?
 待って待って、見間違い? きっとそう。
 夏の太陽がまぶしすぎて、吉見さんのまなざしが特別なものに見えただけ。
 うん、そう考えればしっくりくる。