一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 メモを見た柳さんは、客の視線がポイントだとアドバイスしてくれた。しかしせっかくのアドバイスもピンと来なかったのだ。

「ああ、それは。……吉見くん、今も早く事務所に戻りたいと思ってるでしょ。そう考えているうちは、理解するのは難しいかもしれないなあ」
「それは……課長の命令に従えという意味ですか?」

 アジフライのさくさくした衣にかぶりついた俺は、首をひねった。油断すると小骨が喉に刺さりそうだ。

「君はほんとうに飾らないというか、不器用だねえ。そうじゃないよ。吉見くんは最近、食事を楽しめているかい?」

 反射的に、よく噛まないままアジフライを飲み下してしまった。
 喉に塊がつかえたあと、ぐっと腹に落ちていく感覚に顔をしかめる。
 そのあとでふと、目白さんとの食事が思い浮かんだ。
 目白さんはとにかくよく食べた。その食べっぷりは、思わず十代の男子を想像したほどだ。
 けど、その食べっぷりは見ていて気持ちよかった。
 ただ食い物を胃に収めるのとは違い、彼女はひとつひとつに目を幸せで輝かせ、味わい、きれいに食べきったあとの余韻まで楽しんでいた。
 本人は大食いなのを隠しておきたいようだったが、我慢しなくてよいのにと本心から思う。
 あんなふうに、満面の笑顔でものを食べてくれる光景をもっと見たかった。いつまででも見ていたかった。

 あの感情をどう言い表すのかといえば、たしかに俺は楽しかったのだと思う。

「おや、一緒に食事を楽しむ相手がいるのかな。いい顔になったよ、吉見くん。なら、わかるんじゃないかな」

 その瞬間、頭の中にル・ポワンの店内イメージが鮮やかに広がった。
 そのやわらかな明かりの下で、目白さんが頬をゆるめて食事をする風景が。
 俺はビールをひと息に呷ると、ジョッキをカウンターに叩きつけた。

「――課長! 事務所戻ってもいいですか?」