一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「ん? あ、ああ。再提案だよな、再来週までにはなんとかする」

 私の話は耳に入っていないみたい。
 返事をするまもなく、吉見さんは思考の海に沈んでしまった。
 頭の中で、設計図面をひっくり返しているんだろうな。

「よし。こうなったら、最っ高の提案をしよ」

 吉見さんが休日返上で検討した案だ。それ自体に不備があったわけじゃないはず。
 なにかが、求められるものから少しズレただけ。
 そのズレさえ修正すれば、満足してもらえるはず。

「吉見さんの提案、私はいいと思ったよ。だから、一緒にもっといいのにしよう」

 気休めにしかならなくても。吉見さんが、少しでも笑ってくれればいい。
 私が両手でピースを作ってみせると、顔を上げた吉見さんが小さくうなずいた。
 
     *
     
 時間だけが無情に過ぎていく。
 明日には再提案するつもりで目白さんにアポを取ってもらったのに、肝心の俺は再提案の糸口すら見つけられずにいた。
 クライアント自身にも、違和感の正体を上手く言語化できないというケースはままある。
 それを図面を通して探っていくのが、建築士の仕事だとも思っている。
 が、今回ばかりはどうも壁にぶつかっている気がしてならない。
 あれから目白さんは、クライアントから再度話を聞き出してきたようだ。
 その彼女に渡されたメモを、俺はもう一度読みこむ。
 これが本来の目白さんなのだろう、伸びやかな字で隙間なく書かれたメモの下には「頑張って」とガッツポーズをする筋骨隆々な小鳥が描かれている。ヒヨドリのつもりだろうか。

「いや、なんでムキムキなの」

 目白さんの理解しがたいセンスに忍び笑いが漏れるが、肝心のアイデアはさっぱり浮かばないままだ。
 このメモもすでに、紙に穴が開くほど読み返している。
 バイトの学生に作らせた模型も散々眺め回したが、突破口は依然として見つからなかった。