一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「その……正直に答えてね。この前の私、酔って変なことしてなかった?」
「いや」
「ほんとう? ぜったい? や、こんなこと聞いて面倒くさい女だとは思うんだけど」
「まあ、上目遣いとか……無防備に男の前で見せないほうがいいとは思ったな」
「えええ、恥ずかし……ごめん!」

 頭を抱えてしまう。サンドイッチをみるみる片づけていく吉見さんが、声に出さず笑った。

「俺の前ならいいけど。これ以上、俺の前で隠すものもないだろうし」
「……吉見さんって、なんか」
「なんか?」
「なんでもない」

 私はずいーっと、少々お行儀悪くアイスティーを飲んだ。
 そうでもしないと、頬の熱が下がらないように思えて。
 吉見さんは言葉が足りないわりに、ひと言の破壊力が酷い。
 勘違いで心臓が弾けたら、どうしてくれよう。
 ふうん、と言いながらも吉見さんが笑う。かと思うと、真剣なまなざしで設計図の修正を始める。

「きっと、この提案ならお客さんも喜んでくれるね」

 その姿にはからずも胸がぎゅうっとなったなんて、いよいよ私はおかしくなったのかもしれない。



 
 ところが、その数日後。
 自信満々で提案した詳細設計の提案は、微妙な空気を残して持ち帰りとなってしまった。

「お客様が食事を楽しむ姿が見えてこない、か」

 シェ・ヒロセでの打ち合わせを終えた帰り道。
 アスファルトに転がった蝉の死骸を蹴りながら、吉見さんがため息を落とした。

「具体的な指摘じゃないだけに、対応が難しいね。すっごくいいと思ったんだけどなぁ」
「……ああ」

 吉見さんの声が暗い。
 ラフ案を提示したときには好感触だっただけに、今日のこの結果は吉見さんにとっても想定外だっただろう。
 まだ、値段交渉をされるほうが対応のしようもあるのに。

「私、もう一度話をしてくるよ。具体的にどこを直せばいいか、探ってくる。……吉見さん?」