一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「どう?」
「どう、と言われても……呼び出した用件って、これ?」

 吉見さんの家の近所だというファミレスに駆けつけた私は、唖然としてボックス席の向かいに座る吉見さんを見返した。
 正確には、彼の前にあるノートPCの画面を。

「吉見さん、休日も仕事してたの?」

 ディスプレイに表示されたのは、シェ・ヒロセの新業態の店舗のイメージ画像。左上には「ル・ポワン完成図」とある。もちろん、ル・ポワンは新店の店名だ。
 続いて、外部の人間に見せても差し支えない範囲で設計図面が続く。
 具体的だなと思ったら「ル・ポワン新築工事詳細設計図面」と銘打たれていた。
 前回までの提案から具体化しているのも当然だ。
 休日の昼すぎ、ファミレスは小さな子のいる家族連れで賑わっている。
 省エネのためか照度は落とされていて、窓からの採光だけでは店内は薄暗い。
 仕事をするのには、不向きとしかいいようのない環境だ。
 けれど、吉見さんは気にもとめずに作業をしていたらしかった。
 ドリンクバーのものだろうドリンクカップだけが、テーブルに置かれている。

「ねえ、お昼は食べた?」
「いや、まだ。それよりコメントは?」

 注文しようとタブレットに伸ばした手を止め、私はあらためて吉見さんがこちらに向けたPCを覗く。

「図面の細かなことはわからないけれど、なんか……なんだろう、妙に懐かしい雰囲気がする。ちょっと田舎の、昔からやってる洋食屋さんみたいな」
「まさにそれを目指した」

 吉見さんが満足そうに笑みを広げ、PCを自分のほうに引き寄せた。
 思わずうっ、と言いそうになった。晴れやかなだなぁ。
 設計という仕事が心から好きな顔をしている。
 おかげで、毒気が抜かれてしまった。