一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 人前では食べたいだけ食べられなかったというくらいだから、アルコールも同様だっただろう。
 だから本人もセーブを知らなかった……と考えれば、なんとなくむず痒い。
 軟体動物さながらの姿を知るのは、俺だけか。
 まあ、軟体動物でもかわい……。
 空咳が出た。

「目白さん、着いたけど。俺が出たら鍵閉めて」

 部屋の鍵を開けてやり、廊下に目白さんを座らせる。
 心配ではあるが、自分の部屋ならなんとかするだろう。俺が居座るほうが、いろいろとまずい。
 じゃあ、と帰ろうとしたら、体が傾いた。なんだ、と思って目を落とすと、目白さんにシャツの裾を引っ張られていた。

「ね、引いた……?」

 まるで捨て猫のような目で見あげてくる。さっきまでの笑った顔との落差に、ドキッとした。

「ほんとうに萎えてない……?」
「しつこいって。さっきも言ったけど――」

 言いかけて口をつぐんだ。裾を引っ張る目白さんの手に、力がこもっている。かすかに震えているようにも見えた。
 酔っ払っているから……いや、違う。
 しつこく尋ねずにはいられないくらい、目白さんはこれまで自分を抑えこまされてきたのだ。
 俺は自分でも無意識に、シャツを握る目白さんの手に自分の手を重ねた。
 俺の手の中にすっぽりと入る、意外と小さくてなめらかな手。

「またメシ行こう。な」
「うん」

 目白さんがほっと顔をゆるめる。
 一瞬、泣くかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。

「鍵閉めて。じゃ、また事務所で。……おやすみ」

 なぜか名残惜しい気分がもたげたのを強引に振りきり、俺は目白さんの手を離した。
 
    *
 
 話題になっていた都内の大型複合施設のお店で、手にしたワンピースをじっと見ていると、里緒に苦笑された。

「さっきからずっとそのワンピースを握ってるよ。試着したら?」
「わっ、ぜんぜん気づかなかった」