一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 驚愕といってもいい視線からお腹を手で庇うと、皆、そうだよなと笑った。

「まあ、おひよに限って腹を鳴らすわけないか」

 思わず肩が縮こまる。顔が熱い。

「というわけで、メジロかヒヨドリかっていう少食だからすぐ覚えられるわ。以上が営二のメンバー」

 部長が隣の男性に向けて言うのを聞いて、われに返った。
 そうだった。午後いちばんで、彼が設計部の課長に連れられて営業部へ挨拶に来たんだった。
 花梨ちゃんの言っていた転職者に違いない。にしても自己紹介、短すぎない? ほとんど聞けなかったんだけど。
 なんて名乗ってたっけ。
 聞いたはずの名前を思い出せず、私はちらっと彼の首元を見る。
 けれどまだネームカードを渡されていないようで、ネクタイのない首元はスカスカだった。
 あらためて、なんとなく彼を見る。
 細身の体をごく薄いブルーのワイシャツに、紺色のジャケットとスラックスが包んでいる。身長に比して足がすらりと長い。
 首元のボタンを外してあるのが、こなれている。
 ストレートマッシュにした色素の薄い黒髪が、面長のシャープな輪郭を縁取っている。彫りが深い顔立ちだ。
 なかでも、印象的なのはきりりとした線を描く眉と、鋭い目だ。頭が切れそう。
 だけど、どこかひとを寄せつけないオーラが放たれている。
 馴れ合いを好まない、一匹狼のような。

「なんたって、あの(だい)(にち)設計様から来た優秀な建築士だ。さっそく、設計部でバリバリ働くってことなんで、営業もじゃんじゃんプロジェクトを取って、彼に回してやること」

 なぜか得意げな部長の隣で、転職の彼は無表情だ。
 ととのった顔だけに、よけいに近寄りがたい雰囲気が際立っている。
 ちらっと周りを見ると、同僚たちもその雰囲気を感じ取っているようで、眉をひそめているメンバーもいた。