一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「鍵、出して。部屋まで送るから。誰か、部屋にいる? 迎え呼ぶか?」
「そんなひといませーん……」

 声も、仕事のときのようなしゃっきりとした感じがなくて、熟れすぎた桃のようだ。
 突いたら、簡単に崩れそうな。
 大食いを自称するだけあって、目白さんはよく食べた。
 ビールからワインに切り替えたあとも、すいすい口に運んでいた。前に参加した歓迎会でも、彼女が酔っ払う姿を見せることはなかった。
 だからてっきり、お酒もイケる口かと思ったが。
 結論から言うと、目白さんはイケる口ではあった。
 ただ、ある一定量を越えるまでは、という注釈が必要で。

「私もフリーだよー」
「いや、訊いてないけど」
「あー、吉見さん、私に興味ないんだ」
「そういう話してないんだけど。鍵は?」

 目白さんがくすくす笑う。
 よく食べ、よく飲んだ目白さんは、唐突に串揚げ屋のカウンターに突っ伏したのだった。
 前兆らしきものはまったくなかったので、よけいにびびった。
 目白さんがふわふわと笑いながら、ショルダーバッグから鍵を取り出す。ドヤ顔で渡されて面食らうと、彼女はまた笑った。なんなんだよ。
 鍵を預かり、マンションのエントランスに入る。
 立地の割にセキュリティーはしっかりしているようで、思わずほっと息をついた。別に、俺がほっとすることでもないが。

「なんで別れたかというと、あれは大学生のときでした……」
「唐突に自分語りかよ」
「続きはまた来週。お楽しみにー」
「酔っ払いめ」

 油断するとすぐ目白さんはよろめいてしまう。
 服に染みこんだらしい油の匂いが彼女らしくて、こっそり笑ったら憤慨された。

「違う」

 とだけ返すと、また目白さんがふわっと笑う。

「そういうとこだぞ、吉見さん。もうひと言」

 目白さんが限界を越えたのは、これが初めてに違いない。