一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 だけど、その少ない言葉はどれも飾らないものだから、相手に響く。

「ほら、ここにその例がいるのわかる? 私さ、これまで親友以外の他人の前で、好きなだけ食べられたことがなかったんだよね」

 食べ終えた串があふれそうに刺さった竹筒を指さす。
 目をみはった吉見さんが、ややあってからまた小さく噴き出した。

「どうも」
「あ、でも吉見さんは、もうひと言あってもいいかもしれない。さっき、けっきょく吉見さんも私をからかってるのかなって、ショックを受けかけたからね」

 そのあとの吉見さんのまなざしで、そうじゃないと気づいたけれど。

「あれは……清々しい気分になったのが久しぶりで、つい。悪い」
「それならいいよ。これからもその調子でフォローして」
「善処する」

 目を細めた吉見さんの声は軽やかで、やわらかかった。
 声に輪郭があるとしたら、丸いかたちをしているはず。
 だしぬけに胸がざわめいた。
 なぜだか正面から吉見さんを見られなくて、私はそそくさとワインをおかわりした。
 
     *
     
 目白さんのマンション近くで、タクシーが静かに停まった。
 彼女の住むマンションは、今ではあまり見られなくなった下町風情漂う商店街を抜けたすぐ近くにあった。
 夜も更け、早々にシャッターを下ろした商店街は、遠くから見てもがらんとしている。
 駅からマンションへは商店街を抜けなければならないが、女性がひとりで歩くには物騒ではないだろうか。
 いや、ひとりかどうかは知らないが。

「目白さん、降りて。着いたんだけど」
「んー……」

 とろんとした目が、ゆらゆらと辺りを見回す。危なっかしい。しかたなく、彼女の腕を引いてタクシーを降りた。
 去っていくエンジン音が消えると、とたんに静寂が辺りを満たした。
 目白さんがよろめいて、慌てて肩を抱く。やわらかな肌から、かすかに甘い匂いが立ち昇った。