一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 その少し前から、予兆はあったと吉見さんが続ける。
 デート中の、喧嘩にもならないような小さなすれ違いが増えた。週末に会えないことが増えた。メッセージから絵文字が減った。

「無言のサインっていうの? 俺そういうの、読み取れなくて」

 吉見さんが浮気に気づいたのは、そんなふうにぎくしゃくした時期が続いたときだった。
 きっかけは、デート中のささいなすれ違い。
 例によって微妙な雰囲気になったまま彼女が帰ったあと、カフェに置き忘れられたスマホを手に取ったときだったという。
 見知らぬ男からのメッセージの通知。
 そこには週末を彼女の部屋で過ごすか、男の部屋で過ごすか、尋ねる文面が踊っていた。

「俺の手の中で、浮気相手から立て続けに通知が来んの。こいつマメだなって思ったときに、もう無理だなと気づいて」

 彼女の求めるかたちの恋人には、なれなかったと思い知った。そう、吉見さんはさっぱりとした顔で笑う。
 目元がほんのり赤い。
 普段より口数が多いのも、酔っているからかな。それとも。
 茗荷(みょうが)の肉巻きを食べながら、ぼんやりと考える。

「別れを切り出したら、浮気相手のこと訊かないの? って言われたけど。聞いたところで、なにも変わらないだろ。そしたら『一希はわたしを好きじゃなかったよね』って。そのとき、そうかもしれないと思ってしまったんだよな」
「うわぁ、彼女かわいそう。って、浮気するほうが悪いとは思うけどね?」
「ん。まあ……自分では大切にしていたつもりだったけど、違ったんだろうな。気の利いた言葉をかけられるようだったら、別の展開もあったかもしれないとは思う」
「気の利いた言葉なんて、吉見さんには無理だよ」
「追い討ち」
「や、違くて。吉見さんの言葉は嘘がないから。気の利いた言葉をひねり出そうとしなくても、そのままの言葉で心に届くと思う」

 吉見さんはきっと、言葉が足りないひとだ。