一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「うそ、萎えてない?」
「どこに萎える要素があるの」

 私はパッと顔を上げた。
 吉見さんは純粋にそう思っているようで、首をかしげてビールを飲んでいる。
 けれど、私の視線に気づくとぶはっと噴き出した。
 一度噴き出すと笑いが止まらなくなったようで、拳で口元を隠したけれど、それでも笑い声が漏れている。

「ちょっと、吉見さん?」
「悪い、違う。違うから」
「なにが?」

 むっとして吉見さんを見たら、ひとしきり笑った彼が目を優しく細めて見つめ返してきた。

「もっと食ってるとこが見たいと思っただけ」

 とたん、人前で大きく口を開けられなくなった十代から、少しずつ削られて、すっかり小さくなってしまっていたもの。
 それが、私の内でふわあっと膨らんでいく。
 かたちを取り戻していく。
 吉見さんの、ひと言によって。




 ビールからワインに切り替えると、ますます箸が進んでいく。
 カマンベールチーズにはちみつと黒胡椒を添えたら、優しく包みこむ甘さとしょっぱさのマリアージュにうっとりする。
 (はも)はさくりと衣に歯を立てると、その下でやわらかな身がほろりと崩れる。
 そのうち、私の身までほろほろと崩れていきそう。
 次から次へ口に運ぶ。食べたいものを食べたいだけ食べられるなんて、すごく贅沢。
 鱧に合わせた白ワインも、後味がすっきりして爽やか。涼やかな高原にいるみたい、なんて。
 しばらくは、吉見さんの様子をうかがいながら食べていたけれど、今ではもうびくつくこともない。

「……あ。今さらだけど、誘って大丈夫だった? 会社の同僚とはいっても、ふたりだし……吉見さんの恋人に誤解されない? 説明が必要なら、私説明するからね」
「いや、恋人はいない。とっくに別れてる」
「そうなんだ。えっと……いつ? なんで別れたのか聞いてもいい?」
「二年前。彼女の浮気で」