「そ。俺と宮根とで人選した。おひよは、自分に関わった相手を放っておかないだろう。それに、そうやってひとの美点を見抜けるのもおまえのいいところだよ。吉見も前職でいろいろあったから苦労するかもしれんが、その調子で頼むわ」

 野添部長は事情を知っている素振りを見せたけれど、深く尋ねるのはやめておいた。
 本人がいないところで聞くのもはばかられるし。
 でも、なにがあったのか気になるのも事実で。
 なんとなく吉見さんのことを考えていたら、いつのまにかエレベーターを降りそびれていた。そして野添部長の姿がない。
 部長ってば、ちゃっかり自分だけエレベーターから降りている。
 ぐんぐん上昇していくエレベーターの中でがっくりしたとき、スマホが電話の着信を知らせた。
 



 本日二度目。
 夕方、吉見さんが出先から戻ってくるころあいを見計らって、私は三階の設計部へ駆けこんだ。

「吉見さんは? 吉見さんいます!?」

 定時が近いからか、あちこちで談笑するグループができている。春は新しいプロジェクトが動きだしたばかりでもあることが多いから、まだ余裕があるのだろう。
 きょろきょろしていると、設計部の宮根課長が窓際の席で「また来たの」と苦笑した。
 電話を受けた直後も吉見さんを探しにきたのだから、無理もない。
 そのときは客先に出ていると返答されたので、今か今かと待ち構えていたのだ。

「吉見くんはあっち」

 課長が物言いたげに指差すほうを見やる。
 吉見さんはフロアの端、仕切りのついた個人席でひとり黙々と作業していた。
 そこだけ、和気あいあいとした雰囲気から切り離されたみたいに静かだった。

「吉見さーん」

 逸る心のままに駆け寄り、集中しているらしい吉見さんの肩を軽く叩く。

「聞いて! シェ・ヒロセから連絡があって……って、吉見さん?」
「ぐっ、ごほっ、ごほっ……」