週明けの朝、裏口から入ってすぐのところにあるエレベーターを待っていると、野添部長と一緒になった。

「お、いいもんを食った血色をしてるな」
「おかげさまで、ちょっとしたセレブ気分を味わわせていただきました。部長は残念でしたね」

 まったくだ、と嘆息する野添部長に笑いつつ、私はランチバッグを後ろ手に隠す。
 今日は花梨ちゃんが有休なので、いつもよりひと回り大きくて、二段になったお弁当箱を持参している。
 花梨ちゃんには申し訳ないけれど、人目を気にせず食べられると思うと、早くもテンションは上昇傾向。
 あとは昼休憩のときに、ひとのいない場所を確保するだけ。
 ただ、部長の前に大きな弁当箱を堂々とさらすには、あと一歩勇気が足りない。

「まあいい思いをした分は、しっかり成約で貢献してもらおうか」
「はいっ、私もまたあそこで食事をしたいので頑張ります」
「その意気。吉見とはどうだ? 上手くやってるか?」

 部長に続いてエレベーターに乗りこみながら、私はうーん、と考えこんでしまった。
 吉見さんの人付き合いの悪さは相変わらずらしい。
 飲みの誘いを拒否する回数も、順調に伸びているとか。
 そんなだから当然、社内の打ち合わせも断られることが多い。
 なので、私も作戦を変えた。
 最近では「ちょっと質問させて」という態で吉見さんの席に突撃し、そのまま打ち合わせに持ちこむようにしている。
 吉見さんも薄々気づいてはいそうだし、なんならしつこいと思っている節はある。
 けれど表向きはなにも言わないので、作戦勝ちということにしておこう。
 そうやって打ち合わせに持ちこんで初めて、見えてくるものもあった。

「吉見さん、実はすごくクライアントに対して真摯でした」

 初回訪問よりも前から、下調べをしていたと知ったときは驚いた。