一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 ランチ営業真っ最中のスパイスカレー屋の小綺麗なテーブル席で、小学生来の親友である里緒が、梅干しを食べたかのような顔をした。

「会ったことない人種だあ」

 クライアントへの初回訪問から、およそひと月。
 私は注文を終えるなり、転職男→効率男→旨煮男→吉見さんへの変遷を語り尽くしていた。

「喋りかただってぶつ切りで、詳しく説明しようという意思を感じられないの。話す労力が惜しいのかもしれないけど、こっちはいつ爆弾をぶっこまれるかって、冷や汗ものなんだから!」

 言いながら、私は運ばれてきた春キャベツとアサリのココナッツカレーに猛然とスプーンを入れる。
 口に入れれば、ココナッツミルクのクリーミーなまろやかさが、私を慰めるかのように舌を溶かす。うわぁ、美味しい。
 アサリの旨味と、何種類ものスパイスがブレンドされた奥深い香りのパンチが聞いている。
 春キャベツをかみ締めれば、甘さが優しくすべてを包んでくれる。
 うーん、絶品……!
 大盛りのライスが進む進む。
 事務所から徒歩十分の場所に、こんな店があるなんて知らなかった。
 里緒の見つけるお店はハズレがない。

「現地調査なんか、来る? って誘ったくせにひと言も喋んないの。話しかけても無視。ひとりで黙々と写真を撮ったりメモしたりで、雑談すらないままだったよ」

 里緒は熱心に相づちを打ってくれるものだから、溜めこんだ鬱憤も流れるように出ていってしまう。
 食べたり喋ったり、忙しい。
 合いがけにした鶏肉のキーマカレーを口に運ぶと、ココナッツカレーと反対に刺激的な辛さが舌から頭へ突き抜けて、くらくらした。
 まるで吉見さんのようだ、とちょっと思う。
 劇薬注意、だ。
 粗挽きの鶏肉の食感は、癖になりそうだけど。あ、吉見さんは間違っても癖にはならない。

「好きな話だと、急に饒舌になるんじゃない?」