一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「そ、そうだとしても! 言いかたとか、タイミングってものがあるでしょ……?」

 息巻く私に対して、吉見さんは眉ひとつ動かさない。
 その温度差も釈然としなくて、私も眉を寄せてしまう。
 彼と比較すると、まるで私が冷静さを失っているみたいじゃない?
 先日の歓迎会だってそう。
 あのときの話はいっさいするなと、釘を刺したはずにも関わらず、私が夜食を大量買いしていたことを言うなんて。
 頭の中を抗議の文言がぐるぐると回る。
 でも、蒸し返すのも嫌だ。
 一刻も早く忘れてほしいのに、私が蒸し返してどうする。いや、でも……。
 散々考えた結果、私はとりあえずいったんのみこむことにした。

「ま、まあ、次からは配慮してください……って、聞いてます?」

 吉見さんがいつのまにか数歩先をすたすたと歩いている。しかも、そっちは事務所の方向じゃないんだけど?
 私はパンプスをカツカツと鳴らし、早足で吉見さんに追いつく。
 肩を上下させて口を開こうとすると、それより早く吉見さんがふり向いた。勢い余って、私はその広い背中にぶつかってしまった。

「ぶっ」

 鼻柱をさすって顔を上げると、深い色の目が私を見おろした。
 あれ、実はまつ毛が長いんだ。

「新店舗予定地、もう一回現調してくる。前回、ざっと眺めただけだったから。許可はさっき取った。来る?」
「えっ、いつのまに」

 現地調査をしていたことも、これから調査するための許可を得ていたことも。いつのまに?
 驚きとも疑問ともつかない私のつぶやきへの返事の代わりに、吉見さんが続ける。

「今日の話、踏まえて確認すりゃ、見えるものがあるかも」

 さっさと歩き出した吉見さんの背中を見て、われに返った。
 仕事ぶりは意外とていねいなのかも。
 そういうことなら、と今度は小走りで追いかけた。足取りが軽い。

「行く!」