四十代半ばだろうか。男性にしては小柄だけれど、穏やかな目元とやわらかな物腰のなかに、たしかな自信がうかがえる。
新しい店舗は、日常の狭間にあって息をつき直す場所にしたい。疲れた体に沁みる、優しく背中を押すメニューを出したい。
シェフの希望はとめどなくあふれてくる。
それもそのはず、高級路線で押しているシェ・ヒロセとはコンセプトから価格帯、客層までまるで違うのだから。
「具体的に、外装や内装のご希望はございますか? たとえば――」
と、私はタブレットでサンプルを見せながら、廣瀬さんから話を引き出していく。キーワードをメモすることも忘れない。
と、しばらく隣で黙って聞いていた吉見さんがポツリとつぶやいた。
「それで、最優先事項はどれです? ご希望をすべて叶えるのでしたら、およそこれくらいになりますが」
吉見さんが提示した金額に、それまで雄弁だったシェフの舌が凍った。
「そ、それをなんとかするのが……」
「ええ! 私たちです。ですから、今日の段階では、まだご希望をうかがうだけで一向にかまいません。今日の目的はあくまでも、新店舗のイメージを共有することにありますので」
それからも、吉見さんは淡々と店舗予定地の建築制限などを説明していく。
初回の打ち合わせは、背中に冷や汗をかきながら終了した。
挨拶をしてクライアントの元を辞し、住宅街からセンスのよい路面店の並ぶ通りに出ると、たまらず文句が口をついた。
「吉見さん、今日は初回なんですよ? いきなり間口を狭めたら、次回から話も聞かせてもらえなくなっちゃいます」
「できることとできないことを、あらかじめ提示する。でなきゃ話が発散して、最終的には瓦解する」
新しい店舗は、日常の狭間にあって息をつき直す場所にしたい。疲れた体に沁みる、優しく背中を押すメニューを出したい。
シェフの希望はとめどなくあふれてくる。
それもそのはず、高級路線で押しているシェ・ヒロセとはコンセプトから価格帯、客層までまるで違うのだから。
「具体的に、外装や内装のご希望はございますか? たとえば――」
と、私はタブレットでサンプルを見せながら、廣瀬さんから話を引き出していく。キーワードをメモすることも忘れない。
と、しばらく隣で黙って聞いていた吉見さんがポツリとつぶやいた。
「それで、最優先事項はどれです? ご希望をすべて叶えるのでしたら、およそこれくらいになりますが」
吉見さんが提示した金額に、それまで雄弁だったシェフの舌が凍った。
「そ、それをなんとかするのが……」
「ええ! 私たちです。ですから、今日の段階では、まだご希望をうかがうだけで一向にかまいません。今日の目的はあくまでも、新店舗のイメージを共有することにありますので」
それからも、吉見さんは淡々と店舗予定地の建築制限などを説明していく。
初回の打ち合わせは、背中に冷や汗をかきながら終了した。
挨拶をしてクライアントの元を辞し、住宅街からセンスのよい路面店の並ぶ通りに出ると、たまらず文句が口をついた。
「吉見さん、今日は初回なんですよ? いきなり間口を狭めたら、次回から話も聞かせてもらえなくなっちゃいます」
「できることとできないことを、あらかじめ提示する。でなきゃ話が発散して、最終的には瓦解する」



