先輩や上司から「おひよ」とか「ひよちゃん」とか呼ばれるのは、ちょっとむずむずするけれど。

「ないない。人生で三度はモテ期が来るって聞いたけど、残念ながら私には一生来なそう」

 悲しいかな、私は美人の部類じゃない。卵形の顔のパーツは、二重瞼の猫目以外はどれも薄味。
 胸下まであるストレートの茶髪は、耳の下でひとつにまとめただけで、なんのひねりも加えていない。
 お弁当には遊び心を加えようとするのに、自分の外見となるとてんでお手上げだ。
 なんて、たとえ誰かと付き合えたとして、最初のデートでつまずく未来が目に見えている。
 後輩社員――正確には契約社員の花梨ちゃんとお昼を食べるのさえ、気を抜けないのに。
 小さなお弁当箱と見せかけて、実はみっちり詰めこんだご飯を咀嚼(そしゃく)しながら、私はこっそりため息をつく。なにか勘違いしたらしい花梨ちゃんが、フォローを入れてくれた。

「陽彩さんが高嶺の花だと思われてるのかも。だってそこらへんの男じゃ、もったいないですもん。仕事してても、女子力をキープしてるなんて」
「ありがと。でも、女子力っていうなら花梨ちゃんのほうがずっと高いよ」

 肩下までの茶髪を緩くカールさせた髪型も、きゅるんとした目も、シアーピンクの口紅も、かわいい。
 長いまつ毛が寸分の乱れもなくばちっと上がっているのも、毎日ていねいに手をかけているんだろうなと惚れ惚れする。
 抱きしめたらいい匂いがしそう。ううん、すでにしている。
 リボンのついたブラウスに淡い色のスカートも、まるでデート仕様だけれど花梨ちゃんなら嫌味がない。

「それに、花梨ちゃんだって少食で……お昼、それだけなんだよね?」
「はいっ。今日は『ダリアキッチン』でテイクアウトしてきました。あそこ、お洒落でかわいいじゃないですかぁ。お気に入りなんです。量もちょうどよくて」