ああだめ、一希の顔が見えない。せっかくのメイクも台無しだ。

「――だから俺と、結婚して」

 こらえきれなくなった涙が一粒、ワンピースの裾を濡らしていく。
 とうとう堰を切ったように泣きだした私を見かねたのか、一希が席を立った。テーブルを回りこみ、私の目元をナフキンで拭ってくれる。
 それでもなお、幸せな予感がはち切れんばかりに膨らんでいくのを止められない。

「――はい……っ」

 嬉し涙で揺れる視界の向こうで、一希が照れ臭そうに笑ったのが見えた。私を私のまま肯定して、呪縛から解放してくれたひと。
 だからきっと。ううん、間違いなく。
 ここから始まる彼との毎日は、どれもこれも――とびきり美味しい。