急に挙動不審になった営業の皆さんの代わりに、柳さんが答えた。

「おひよちゃんに、これまでの詫びを伝えていたんだよ」
「詫び? ああ」

 先輩たちの視線を追った一希が、空きデスクの上に山と置かれた差し入れを見やる。

「おひよちゃんには窮屈な思いをさせていたからね。これからは伸び伸びとしてほしいという願いをこめて――」
「願いをこめて、餌付けですか」

 私はぎょっとしたし、柳さんは絶句した。

「あ、ああ、そんな一面があることは否定しないが、これもおひよちゃんへの愛情ゆえだと思ってくれれば」
「陽彩が事務所で皆さんに愛されているのは承知しています。横槍を入れる気もない。けど、俺も人並みに独占欲はあるんで」

 一希が、先輩たちを一瞥した。

「彼女に別の男が群がる光景を見ると、平静でいられないですね」

 一拍遅れて意味を理解するなり、私の顔がみるみる赤くなっていく。
 なにか言おうと思うのに、口をぱくぱくさせてしまって言葉が出てこない。だって。だって。

「陽彩さん、早くおふたりでお昼行ってください! ここはわたしが引き受けますから」
「か、花梨ちゃん」

 でも、と私は花梨ちゃんを見た。
 ほんとうは、花梨ちゃんにこそ伝えたいことがある。
 ずっと大食いを隠していたことも、一希を好きになって、恋人になったことも、きちんと話ができていない。
 臆病で卑怯だったこと、謝りたい。

「花梨ちゃん、私話が……」
「大丈夫です。今度夜パフェ奢ってください! そのとき質問責めにしますから、覚悟していてくださいね」

 花梨ちゃんの言葉が、軽やかに私の背を押してくれる。こんな優しい同僚ばかりなら、職場恋愛も悪くない。
 私は花梨ちゃんに満面の笑みでうなずいて、一希の元へ駆け寄った。