翌月曜日の朝。
 いつものように出勤して、最近よく使っている、中央の観葉植物を囲む席のひとつに腰を落ち着けると、見慣れないものに気がついた。
 構造模型と小人の人形が飾られた、観葉植物前のテーブルの上。
 両腕で抱える大きさの籐籠が、突如として出現している。中には、あふれんばかりのスナック菓子や乾き物のおつまみ。

「なに、これ」

 ぎょっとして思わずつぶやくと、隣の席の先輩が「それな」と指差した。
 なんでも、営業部長の発案らしい。

「おひよが俺たちに言えなかったのは、俺たちがそう仕向けていた面もあったからだろ? フリーアドレスの席じゃ、小腹が空いたときの食べ物も常備しづらいよな。おひよに限らず、仕事中に食べづらい雰囲気があったんじゃないかって」
 だからこれからは、各自が自由にここからお菓子をつまんでいい仕組みにするという。食べた分は、皆が補充すればいいらしい。

「ま、俺たちがやたら少食をもてはやしていたのが、おひよにはいちばんキツかったんだろうけどさ。でもこれからは俺たちも気をつけるから、おひよも気兼ねなく食べろ。腹が減ってはなんとやら、だしな」
「ありがとう、ございます……」

 言葉が詰まりそうになって、私は無理やり笑う。
 でもこれは苦しいからじゃない。嬉しくて、皆の気持ちで胸がいっぱいになったから。
 カミングアウトしたのは、先週の金曜日だ。まだ週が明けたばかりで、ほとんど時間も経っていない。
 なのにもう、事務所の皆さんが職場を快適な環境に変えようとしてくださった、その心遣いにじんとくる。

「で、これはおひよ個人に」

 先輩がひと抱えもある買い物袋を私に突き出す。おそるおそる受け取って中をのぞいた私は、今度はおかしくて笑ってしまった。

「いくらなんでも、こんなに食べられませんよ」