一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 伝えられた安堵と満足感で顔を上げた私は、そのまま羞恥で固まった。
 一希が、優しくて甘い、とびきりの表情で私を見おろしていた。

「いつのまにふり向いちゃったの!?」

 体を離そうとした私の手を、向き直った一希がすかさず捕まえる。

「照れている顔が見られるかと思って」
「照れてないから見なくていい!」
「だったら照れていない顔も見たい。陽彩、顔を上げて」
「あんまり、見ちゃダメだからね」

 私は羞恥をふり切って、おずおずと顔を上げる。
 一希が、さっきにも増して溶けそうな目をして私を腕の中に引き入れた。

「先を越されたけど。俺も、陽彩が好きだ」

 小さく嬉しさと気恥ずかしさのまじった叫びが口をつきそうになった。
 一希に好きと言われるのも、たしかこれが初めて。
 好きと言われていないこと、実は地味に気になっていた。
 けれど相手は一希。その言葉を期待してもしようがない。そう頭のどこかで思ってもいたから。
 言葉を尽くすことの少ないひとゆえに、あらためて言葉にされるとその破壊力に悶えるしかない。

「お、おかわりお願いします」
「足りないんだ」
「足りなくはないけど、貪欲なの。大食いだからね。というわけでぜひ」
「……好きだ」
「お、おかわり」

 私はもう一本、と人差し指を立てた。
 胸がぎゅうぎゅうして、痛い。痛くて……癖になりそう。

「好きだって」
「あ、今投げやりになった」
「なってないから。ていうか俺も腹減ったんだけど」
「それ、私にも言えって催促してる?」
「違う」
「違うの? じゃあなに――」

 言い終えるより早く、耳元をひんやりとした唇がかすめる。
 人気のない、街灯の淡い光だけが照らす道で、私は目をみはる。

「めちゃくちゃ減った」

 今度は唇をついばまれる。

「帰ったら、食わせて」

 たちまち真っ赤になっただろう私の首筋に、一希が甘く歯を立てた。