一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 誰も私を質問責めにしなかったのは、きっと私が行弘の一件でショックを受けたのを気遣ってくれたからだろう。
 早い話が、一希が矢面に立ってくれたともいうわけで。

「一希、ありがと。今日は最初から最後までぜんぶ嬉しかった。スカッとしたし、一希のおかげで胃痛もうそみたいに消えたの」
「ほんとうは殴りたかったけどな」
「あの場だから抑えてくれたんだよね。それも含めて、私を大事にしてくれて……ありがと」

 手を伸ばすと、一希が手を繋いでくれる。
 指が絡まって、鼓動が跳ねる。

「一希の手、なんか冷たい」

 違う、私の手が熱いんだ。ドキドキしているから。

「……照れながら名前を呼ぶところを見る気でいたんだけど。機会を逃した」
「成長したんだよ」
「ドヤ顔」
「へへ。ドヤ顔ついでに、もうひとつ言っていい?」
「なに」

 足を止めて訊き返されたら、急にかあっと頬が熱くなった。
 おかしいな。今の気楽なノリに乗じて伝える気だったのに。これくらいさらっと言えるよ、っていうつもりのドヤ顔だったのに。
 真剣に耳を傾けられるからこそ、心臓が暴れだす。
 夜道でよかった。この顔を見られるのは恥ずかしい。
 でも、肝心なことを伝えていなかったって気づいたからには、言わないと。

「その……ね」
「なに?」
「ちょっと、ガン見しないで。あっち向いてて」
「なんだよ」

 いぶかしげな一希をぐいぐいと押し、背を向けさせる。
 吸って、吐いて。
 それから、一希の背に抱きつく。

「好き。一希が好き」

 いつも私は、一希が伝えてくれる気持ちに合わせて「私も」と返すだけだった。
 おなじ思いだったからこそでもあるのは、嘘じゃない。
 けれど、やっぱり自分の言葉で伝えたかった。
 一希が私を大事にしてくれるのが伝わってくるからこそ、私も私なりのやりかたで返したい。
 大事にしたい。

「一希がすごく好き」