一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 廣瀬さんが微笑んで返事を待ってくれる。
 私はおそるおそる同僚たちを見回した。
 胸にこびりついて離れない、過去とおなじ嘲笑を覚悟したけれど、そんなものは誰からも感じない。あるのは、あたたかい目だけ。
 胃の痛みが嘘のように引いていく。

「か、一希……」

 それでもまだ最後の一線を越えられず、私は心の拠り所を探して吉見さん――ううん、一希を呼ぶ。
 つかのま驚きを見せた一希が、目元を優しく細める。
 もう大丈夫。怖くない。
 それだけで背中を押された心地になって、私は言葉を絞り出した。

「ほんとうはすごくよく食べるんです、私。皆さんがきっと仰天するくらい。でも……廣瀬さんのお料理、もっといただいてもいいですか?」

 それからは、行弘の一件は幻だったのかと思うくらい、和やかな時間が過ぎていった。
 カミングアウトしちゃったからには、もう食べるしかないよね。
 私はさっきまでの凹んだ気分もどこへやら、次から次へとお料理を皿に取る。どれもこれも美味しくて、食べる手が止まらない。

「陽彩さん、食べてるときの顔がめちゃめちゃかわいいです〜!」
「や、もうヤケになっているだけで! 花梨ちゃんも皆さんも、黙っていてすみません」

 頭を下げたら、設計の柳さんが手をひらひらさせて遮った。

「むしろよくお腹を鳴らしていたから、もっと食べたほうがいいのにと心配していたんだよね。この食べっぷりを見たら安心したよ」
「え……引かないんですか?」
「引く要素なくないですか? 陽彩さんが楽しそうなのがいちばんです!」

 花梨ちゃんまで……! 抱きつきたい衝動を抑える。あいにく手にはお皿を持っているので、万が一にも料理を落としたらダメだもんね。
 もう、胃が痛むことはきっとないんだろうな。と自然に思う。
 私は、私のままでいいんだ。