「あんた、下劣なんだよ。自分の価値観を相手に押しつけるだけ押しつけて、逸脱されたら相手がおかしいと喚きだす。おかしいのはあんたの狭い視野と想像力の欠片もない思考だ。っていうかまず――」
行弘の顔が歪んでいく。吉見さんが胸ぐらをつかんだ手に力をこめたからだ。
「ひとの大事な女を辱めておいて、無事でいられると思うな」
「……!」
行弘の顔がみるみる恐怖に染まった。
私もにわかに焦った。さすがに暴力沙汰になったらどうしよう、それだけは防がないと。吉見さんにそんなことさせられない。
と、ややあってから吉見さんが手を離した。
立ちあがり、埃を払うかのようにパン、パン、と手を叩く。
「帰れ、今すぐ」
吉見さんが短く言い捨てた。
行弘が怯えた顔で体を起こした。自分が皆に見られているのに気づくと、早口でなにやら言い訳して逃げ去っていく。
フロアがしん、とした。
私は呆然と吉見さんを見つめることしかできない。
吉見さんがあんなに怒るなんて。前職で自分が陥れられた件に対しても、これほどじゃなかったのに。
でも、それは私のためで、嬉しいと思う気持ちを止められない。
「大事な女」という吉見さんの言葉を、頭の中で何度も再生する。
ところが私がなにか言う前に、吉見さんはパーティーの主催者である廣瀬さんに頭を下げた。
「せっかくのお祝いの場に水を差して、申し訳ございません」
宮根課長も廣瀬さんに頭を下げる。部下が不始末をしたからだ。社会人としては当然のけじめだろう。でも。
吉見さんや宮根課長が頭を下げるなんて、違うのに。元はと言えば私が――。
そのとき廣瀬さんが、ふたりに顔を上げさせて私を見やった。
「目白さん。僕は今日、ここを作ってくださったあなたと吉見さんに、誰よりも僕の料理を食べてもらいたくて招待しました。いかがでしたか?」
「私……私は」
行弘の顔が歪んでいく。吉見さんが胸ぐらをつかんだ手に力をこめたからだ。
「ひとの大事な女を辱めておいて、無事でいられると思うな」
「……!」
行弘の顔がみるみる恐怖に染まった。
私もにわかに焦った。さすがに暴力沙汰になったらどうしよう、それだけは防がないと。吉見さんにそんなことさせられない。
と、ややあってから吉見さんが手を離した。
立ちあがり、埃を払うかのようにパン、パン、と手を叩く。
「帰れ、今すぐ」
吉見さんが短く言い捨てた。
行弘が怯えた顔で体を起こした。自分が皆に見られているのに気づくと、早口でなにやら言い訳して逃げ去っていく。
フロアがしん、とした。
私は呆然と吉見さんを見つめることしかできない。
吉見さんがあんなに怒るなんて。前職で自分が陥れられた件に対しても、これほどじゃなかったのに。
でも、それは私のためで、嬉しいと思う気持ちを止められない。
「大事な女」という吉見さんの言葉を、頭の中で何度も再生する。
ところが私がなにか言う前に、吉見さんはパーティーの主催者である廣瀬さんに頭を下げた。
「せっかくのお祝いの場に水を差して、申し訳ございません」
宮根課長も廣瀬さんに頭を下げる。部下が不始末をしたからだ。社会人としては当然のけじめだろう。でも。
吉見さんや宮根課長が頭を下げるなんて、違うのに。元はと言えば私が――。
そのとき廣瀬さんが、ふたりに顔を上げさせて私を見やった。
「目白さん。僕は今日、ここを作ってくださったあなたと吉見さんに、誰よりも僕の料理を食べてもらいたくて招待しました。いかがでしたか?」
「私……私は」



