たまらずお皿を手近なテーブルに置いたとき、すっと店内の歓談の声が遠のいた気がした。
「学習するのが遅いんだよ。女はそうやって隅で慎ましくしているのがいいんだ」
「行……細井さん」
行弘が口の端を吊りあげて近づいてくる。
その足音だけが、やけに耳に響いた。
「この前のエセ自然派化粧品メーカーへの融資、通ったよ。お前が焚きつけたおかげでなにを勘違いしたんだか、あの女社長、俺を通さず上に話を通しやがった」
「その言いかたは失礼かと。御行のお客様ですよね」
「なんだ、少しは態度をあらためたかと思ったが、違うのか。ああ、この場だから猫をかぶっていたわけか? 昔はどこの大食い芸人かと思うくらい、食っていたよな」
とたん、全身が強張った。
目が泳ぐ。血がざあっと引く音がした。隣の上司たちの顔を見られない。
胃がぎゅうっと絞られて、私はたまらずお腹を押さえる。それをどう思ったのか、行弘はさらに口角を吊りあげた。
「あれ、ひょっとして職場にも隠していたのか? 悪い、気づけばよかった。よく見れば、体型も昔と変わらないものな。いや、あの食べっぷりは今でも夢に見るよ」
「やめ、」
行弘は、悪いなんて欠片も思っていない顔だ。
それどころか私を見る目には、いつかの仕返しとでも言わんばかりに愉悦が浮かんでいる。吐き気がこみ上げてくる。
「いい機会だから、皆に言えばいい。それとも俺から言おうか、目白陽彩の趣味はドカ食いで――」
言いかけた行弘が、突然足をもつれさせてその場に尻もちをついた。
「は!? なにすんだよッ」
吉見さん、と私が声を上げるのと、行弘に覆い被さった吉見さんがその胸ぐらをつかむのはほとんど同時だった。
「いいか、よく聞け」
凄まじい怒りを含んだ冷ややかな声。私は思わず息をのんだ。
「学習するのが遅いんだよ。女はそうやって隅で慎ましくしているのがいいんだ」
「行……細井さん」
行弘が口の端を吊りあげて近づいてくる。
その足音だけが、やけに耳に響いた。
「この前のエセ自然派化粧品メーカーへの融資、通ったよ。お前が焚きつけたおかげでなにを勘違いしたんだか、あの女社長、俺を通さず上に話を通しやがった」
「その言いかたは失礼かと。御行のお客様ですよね」
「なんだ、少しは態度をあらためたかと思ったが、違うのか。ああ、この場だから猫をかぶっていたわけか? 昔はどこの大食い芸人かと思うくらい、食っていたよな」
とたん、全身が強張った。
目が泳ぐ。血がざあっと引く音がした。隣の上司たちの顔を見られない。
胃がぎゅうっと絞られて、私はたまらずお腹を押さえる。それをどう思ったのか、行弘はさらに口角を吊りあげた。
「あれ、ひょっとして職場にも隠していたのか? 悪い、気づけばよかった。よく見れば、体型も昔と変わらないものな。いや、あの食べっぷりは今でも夢に見るよ」
「やめ、」
行弘は、悪いなんて欠片も思っていない顔だ。
それどころか私を見る目には、いつかの仕返しとでも言わんばかりに愉悦が浮かんでいる。吐き気がこみ上げてくる。
「いい機会だから、皆に言えばいい。それとも俺から言おうか、目白陽彩の趣味はドカ食いで――」
言いかけた行弘が、突然足をもつれさせてその場に尻もちをついた。
「は!? なにすんだよッ」
吉見さん、と私が声を上げるのと、行弘に覆い被さった吉見さんがその胸ぐらをつかむのはほとんど同時だった。
「いいか、よく聞け」
凄まじい怒りを含んだ冷ややかな声。私は思わず息をのんだ。



