一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 立食パーティーは、廣瀬さんの挨拶とともに和やかに始まった。
 厨房のほうでは、揃いのコック服を着たスタッフたちが立ち回っている。忙しそうではあるけれど、新店舗に特有の活気を感じる。
 さすがシェ・ヒロセの血を継ぐ店舗。
 テーブルに並んだ料理は、どれも気取らないのに華やかで洗練されている。
 花梨ちゃんはさっきから、皿に申し訳程度に盛られた料理に口をつけては目を輝かせている。
 そっか、こういう子が行弘の好みなんだ。
 かわいくてでしゃばらなくて、ご飯は小鳥のようについばむだけでお腹いっぱいになって。と、羨むでもなくそう思う。
 予想はしていたけれど、胃が痛くなってきた。
 小さなグラスに入った、コンソメのジュレを乗せた新玉ねぎのムースも。ホタルイカと春キャベツのマリネも。菜の花とベーコンのキッシュも。
 どれもきらきらとして、美味しそうな料理ばかりなのに。これが私だけ、あるいは吉見さんとふたりなら、どんどん食べられたのに。
 そうでなくても、せっかくのお祝いの席だ。食べないのは申し訳ないし、食べたい。
 だけどそう思えば思うほど、投げつけられた言葉の呪縛が強くなる。
 柑橘のソースで爽やかに味付けされた桜鯛のカルパッチョをお皿に取ったきり、フロアの隅から動けない。
 吉見さんが、廣瀬さんに話しかけられるのが目に入る。
 彼が設計担当だとわかってか、またたくまに彼の周りにひとが集まる。
 人付き合いが得意でない吉見さんは、若干居心地が悪そう。でもひとの輪のあいだからちらちらと見える表情は、嫌ではなさそうだ。

「あいつも成長したよなあ」

 上司や先輩たちが、吉見さんを遠巻きに見つつ笑う。吉見さんの反応を酒の肴にしているみたい。けれど、顔はしっかり部下や後輩を見守る者のそれだ。
 私としても誇らしい光景。
 なのに、胃の痛みが強くなって笑顔が引きつってしまう。