一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 それでいて、表からの視線が気にならないよう随所に配慮がなされている。日常と繋がっているけれど、たしかに「区切り」として息をつける場所だと伝わってくる。
 気取らない内装もいい。ふらっとお茶をのむためだけに立ち寄るのもよさそう。ひと言で言って――。

「すごく好きなんだけど! 吉見さん、天才じゃない?」 

 隣で同様に店内を観察していた吉見さんが咳きこんだ。耳がほんのり赤い。
 なんだかかわいい。でもその恋人は今日は珍しく髪をうしろに流し、光沢のあるネクタイとタイピンでキメていてドキッとする。おっと、いけない。
 部長の姿が目に入って、私は表情を引きしめた。
 今日は、私たち直接の担当者だけでなく上司たちや先輩、なんと花梨ちゃんまで出席している。廣瀬さんのご厚意によるものだ。
 男性陣はスーツに、普段よりもドレッシーなネクタイ姿。
 花梨ちゃんは腰からふわっと裾が広がるワンピース。よく似合っていてかわいい。
 私は……地味だったかもしれない。
 結婚式じゃないしなぁと悩んだ結果、無難な黒のドレスジャケットに白のトップス、ラベンダー色がきれいで選んだ膝下丈のタイトスカート。ピアスは以前、吉見さんが拾ってくれた星が揺れるやつ。
 まあ、顔立ちからして華やかじゃないんだし、無理をしたってしかたないよね。
 私は店内へと視線を移してぎくりとした。

「……」

 そうだった、行弘も招待されていたんだった。目が合った行弘が、私のほうへ足を踏み出す。
 嫌な予感に思わずあとずさると、吉見さんにぶつかった。

「陽彩?」
「あ、ごめん。なんでもない」

 お祝いの場なのだから、私個人の感情は脇に置いておかないと。
 このまま、何事も起きませんように。