一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 濃密な空気が満ちて、沈黙は熱っぽくて。
 でも私はこの濃密さに不慣れだ。なにか喋らないと耐えられそうにない。

「こ、この前、ほんとうは帰らないでって言うか迷っていたんだよね」
「俺が会いにいったとき?」
「そう。でもがっついていると思われたら嫌で。ほら、そういうのが嫌いなひとっているじゃない?」
「元カレのことはどうでもいいけど。泊まらせてくれと言えばよかった」

 思いがけず険しい声にドキッとする。元カレだとは言わなかったのに、今日の吉見さんは鋭い。
 でも、後半の言葉にほっと気がゆるんだ。

「吉見さんも、その気……あった?」

 ありったけの勇気をかき集めて、ささやいた。

「当然。陽彩のがっつくとこ、見たい。俺も遠慮しなくてよくなるから」
「う、わぁ……」

 あ、今、棘がひとつ抜けた。
 嬉しさと安堵で、なんて言ったらいいのかわからない。へへ、と泣き笑いのような変な笑いが漏れてしまう。

「じゃあ、今日……泊まっていい?」
「訊かれなくても、帰さないけど」

 吉見さんが笑って、顔を寄せてくる。
 今度のキスは、さっきより深くて甘かった。



 
 ル・ポワンが竣工したのは、二月の初め。
 その後の完了検査は通常よりもスムーズに終了し、クライアントへの引渡しも二月のうちに無事に行うことができた。
 寂しい部分もあるけれど、大きなトラブルもなく工事を終えられて、肩の荷が降りた気分。
 そして、桜の蕾が膨らむのが目に留まるようになった三月半ば。

「ご招待いただきありがとうございます。素敵なお店ですね」

 私はギャルソンエプロンを着たスタッフに案内されながら、ル・ポワンの店内をしげしげと見渡した。
 通常の店舗よりも天井が高めに作られた店内は、開放感があって気持ちいい。総ガラス貼りの窓も、表通りから奥まで繋がっているように感じさせる。