一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 隣でリラックスする一希の顔を見ていたら、なおさら。
 もう、じゅうぶんな気がしてきた。

「今日、仕事でちょっと嫌なことがあったの。でも、吉見さんの顔を見たら、ぜんぶ吹き飛んだよ」

 元カレのことなんかで水を差したくない。私は言葉を濁してさらっと流し、ポテトサラダを食べる。
 たくあんのポリポリした食感が楽しい。

「陽彩にもそんなことがあるんだな」
「そりゃああるよ。吉見さんみたいに人間ができた大人じゃないから、心の中でこのなでしこヤロウって悪態をついたり」
「男?」
「そう。大和撫子以外は女じゃないと思っている男」
「……元カレ?」

 肩が跳ねて、思わず吉見さんを見る。鋭い目が私を見ていた。

「なんでわかったの……?」
「陽彩が悪態をつく相手なんて、よっぽどの男だろ。恋人の食い気が多いくらいで暴言を吐く男なら、その渾名でも手ぬるいとは思うけど」
「吉見さん、推理小説の探偵みたい。察するのは苦手だって言わなかった?」
「あのさ。そいつに傷ついてるんだろ、話を逸さなくていい」

 私はたまらず缶ビールをテーブルに戻して、吉見さんに抱きつく。
 吉見さんの香りがふわりと鼻をくすぐって、私は息を深く吸う。

「傷ついたけれど、吉見さんがいるから大丈夫」

 どちらからともなく、引き寄せられるようにして唇が重なった。
 唇の表面に触れるだけのキスをして、離れて。次はもう少し深いところに触れる。
 吉見さんのキスは、ほろ苦いビールの味。
 だけどすぐに甘くなっていく。
 頭のうしろを固定されて、さらに深く求められたら、いつのまにかソファの座面に背中がついていた。
 座面と背もたれに手をついて私を囲った吉見さんが、欲をあらわに映した目で見おろしてくる。
 心臓がドキドキを通り越して暴れだす。
 熱を帯びた目。なにも言われなくても、吉見さんの望みが伝わってくる。