一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 私は靴を脱ぎ、買い物袋を拾っておそるおそるリビングにお邪魔する。
 吉見さんはコートも脱がずに、家じゅうのエアコンをつけて回っていた。

「うち、暖房の効きが悪いんだよな。これじゃあったまらないか……風呂入る?」
「えっ」

 お風呂?
 リビングの入り口でうろたえる私をよそに、吉見さんはお風呂の用意をしてしまう。私は吉見さんのコートの裾を引っつかんだ。

「や、待っ……帰らなくていいの?」
「こんな時間にひとりで? 頼むから、これ以上心配させるなって。さっきも心臓止まるかと思った」

 声は険しいのに、ふり向いた目は苦痛を感じたかのように揺れている。心配してくれたんだ。
 胸がぎゅっとなった。

「さっき怒ったのも、だからだった?」
「……当然だろ。彼女が俺を待つあいだに変な奴に襲われたら、どうしてくれるわけ」
彼女(、、)が来たことについては、怒ってない?」
「怒ってない。俺も、家行こうかと思ってた」

 私は吉見さんの背中に抱きついた。

「へへ、へへへ」
「反省してないだろ」

 吉見さんが、私が前に回した手を指先でピンと弾く。私は吉見さんの背中に顔をすり寄せた。

「してる! 次からはちゃんと連絡するから。カロリーバーが嬉しくて。ありがと……一希」

 吉見さんが勢いよくふり返ったので、私はとっさに彼の背中に顔をうずめた。

「見ちゃだめです」
「いや、見るけど」
「ぜったいだめ」

 やっぱりまだ名前呼びは気恥ずかしい。
 というか、名前を呼ぶと否応なく特別な関係だと意識してしまうのがたまらない。
 夜に恋人の部屋を訪ねておいて言う? って、里緒あたりにはツッコまれそうだけれど。

「だったら、このまま風呂場まで連行するけどいいの?」
「ぅわぁ!?」

 私が胴に回した手をつかみ、吉見さんがそのまま歩き出す。わ、わ、と私もつんのめりながらついていく。

「ひとりで行けるよ!」