一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「吉見さん? 手……」

 痛いと言おうとして、息をのんだ。

「なにやってんだよ!」

 ふり向いた吉見さんが、声を荒げる。初めての剣幕に驚いて、買い物袋が反対の手から滑り落ちた。

「お……怒ってるの?」
「当然だろ! こんなとこ来んなよ」
「こんなとこって……彼氏の家だよ? 付き合ってるのに来ちゃいけないの? なんで……」

 語尾がどんどん細くなっていく。私はとうとううつむいた。

「……ごめん」

 考えてみれば、吉見さんは疲れて帰ってきたところだ。いくら恋人でも、勝手に押しかけて歓迎されるわけがない。
 自分の思いつきに浮かれて、サプライズで訪問したら喜ばれるかななんて、考えが足りなかった。
 そうだよ。だいたい、ほんとうに付き合っていると言えるのかも怪しいし……。
 この前タイミングを逃して以降、お泊まりの雰囲気にもなったことがない。
 食事をしても、健全な時間に別れて終わり。キスだって最初の一回以降、まだ――。
 思考がずるずるとネガティブになっていく。視界がぼやけていく。これはよくない。
 退散しよう、と私は吉見さんに背を向けた。

「ほんとごめん、帰るね。それ食べてね」
「そうじゃないって!」

 顔を上げると、吉見さんの最大級の怒り顔が私を見おろしていた。

「こんな時間にひとりで外にいて、なにかあってからじゃ遅いだろ! この辺はけっこう夜は暗くなるし空き巣被害もある。来るなら来るって連絡しろって! だいたい、風邪引いたらどうすんだよ、真冬だってのに」
「え……?」

 私は呆然と吉見さんを見返した。
 吉見さんが怒っている理由って、もしかして。
 吉見さんはなにかに気づいたらしく慌てて玄関を上がる。私にも上がるように言うと、さっさと奥に行ってしまった。
 ええと……いいのかな。