一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 外出前に使用していた席に戻った私は、あれ、と首をかしげた。ここ、私が使っていた席だよね?
 水族館のショップで買ったチンアナゴのマスコットつきボールペンも、テーマパークのお土産にもらった、キノコの置物も、私のもの。
 だけど閉じたノートパソコンの手前に、なぜかカロリーバーが置いてある。見慣れた、青いパッケージのやつ。
 けげんに思いつつそれを取りあげると、付箋が貼ってあった。

【夜食代わりに。お疲れ】

 吉見さんの字だと、すぐにわかった。
 右肩上がりに流れるような字。
 そういえば、事務所に戻る前に夜食を買っておけばよかった、なんて思うけれど。
 私が外出するときにはなかった。だから、一度事務所に戻った際に置いていってくれたのだろう。
 私は付箋の字を指でなぞる。まだぬくもりが残っているように思える。
 忙しいくせに、わざわざ、私の席に立ち寄ってくれたんだ。
 電話とかメッセージをまめにするひとじゃなく、言葉だって決して饒舌じゃないのに。

「っていうか、食べるのが大好きな人間にカロリーバーって微妙なんだけど……」

 でも、吉見さんらしいチョイス。
 思わず付箋を眺めたまま、笑いが漏れた。
 私はそっと付箋を剥がし、なくさないようネームカードの裏にこっそり挟む。
 それから。




 
 その日の夜、十時。

「お帰りなさい」

 と言うと、帰宅した吉見さんが家の前で信じられないというふうに立ち尽くした。

「なにしてんの」

 吉見さんの家の玄関前でしゃがんでいた私は、立ちあがった。
 近くのスーパーで買いものをした袋をぶらぶらさせる。手がかじかんでちょっと痛い。

「来ちゃった。最近会えなかったからつい」
「……いつからいたの」
「や、そんなに経ってないよ。定時過ぎてからだし。お酒と、簡単なおつまみを買っ――」

 だしぬけに手をつかまれたかと思うと、鍵を開けた玄関に引っぱりこまれた。