「融資担当の(ほそ)()と申します。そちらは?」

 差し出された名刺には、誰もが知る都市銀行名が記載されていた。
 新卒で入社したのはたしか広告代理店だったはずだから、転職したのかもしれない。
 学生のころは自信に満ちた風貌だったけれど、今の彼はどこか疲れた顔だ。堅そうな雰囲気のスーツ姿がくたびれて見えた。
 受け取った名刺を手に思考が先へ進まずにいた私は、廣瀬さんと(ゆき)(ひろ)の視線に気づいてわれに返った。

「失礼しました。鷹取設計事務所の営業の目白です。……ご無沙汰しております」
「ああ、そういえば。見覚えがあると思った」

 さっき私を見たときの反応は、明らかに気づいた人間のそれだったくせに。「そういえば」なんて、私に挨拶されて初めて思い出したかのように言う。
 ああ、こういうひとだった。
 大学生のころの私は、恋人ができたと事実で目がくらんで、行弘というひとが見えていなかったんだと思う。
 今なら、冷静に捉えることができる。
 彼はこんなささいなことでも、自分の優位を示したいひとなんだった。

「おや、おふたりはお知り合いですか?」
「ええ、バイト先がおなじで。インポートブランドのインテリアショップで販売をしていたんですよ」

 行弘が廣瀬さんに対して、ブランド名を挙げて肩をそびやかす。
 実際には上客を案内する販売は社員の担当で、私たちは品出しと倉庫の在庫管理が主だったのに。
 当然そうとは知らない廣瀬さんは、興味津々で聞いてくれる。でも、正直いって居心地が悪い。
 さっさと帰ろう。次の予定もあるし。
 ところが、私が挨拶もそこそこに辞そうとすると、廣瀬さんに呼び止められた。
 ル・ポワンの正式なオープンの前に、関係者を集めてプレ・オープンのパーティーを開催するという。