はい、了解。危なかった、そうとも気づかずに誘って、引かれるところだった。

「……そうだね。また明日、お休みなさい」




 
 吉見さんとの一夜が不発に終わった翌週。
 クライアントとの打ち合わせを終えて次の訪問先へ移動していると、里緒から電話がかかってきた。

『ひよちゃん、今日お昼どう?』
「うわぁ、行きたい! 行きたいけど、ごめん。このあとまた打ち合わせなんだ」

 ゆっくりランチしたかったけれど、私はとりあえず吉見さんと付き合い始めたことを報告した。
 こういう報告はずいぶん久しぶりなので、なんだかドキドキする。
 けれど、里緒はめちゃめちゃ喜んでくれた。というか、なんなら得意そうな雰囲気すらあるんだけど。

『ぜったい、ふたりはそうなると思ってたんだよね』
「ええ? 私は自分でも信じられないのに。さんざん『熱がない』とかこき下ろしたくせに、好きになるとは」

 里緒がまたふふっと笑う。

『でもひよちゃん、これまで特定の男性を話題にすることなんてなかったもん。だから、きっとそうなんだろうなって思ってた』 
「そっかぁ、そうかも」

 元カレと別れてからは特に、恋愛のれの字も見たくないくらいだったからなぁ。
 それがまさか、あんな愛想のない吉見さんと。
 あらためて意識すると、奇跡かもなんて思ってしまう。

「おのれ、あの男め……とっくに別れたのに、今になっても私の恋路を邪魔するとは」
『え、元カレさん? なにかあったの?』

 私は、先週の一件を里緒に打ち明けた。
 夜中に会いにきてくれた吉見さんを、お泊まりに誘おうとしたこと。けれどその直前、元カレの言葉を思い出して躊躇したこと。

『吉見さんには話した?』
「フラれた原因は話したよ。でも、ベッド云々まではちょっと」