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材料を買いこみ、敵を倒す勇者のごとき勇ましさで、作り置きのおかずを猛然と作る。
鶏肉と根菜たっぷりの筑前煮を仕込みつつ、きんぴらごぼう、自家製なめたけを用意する。
焼くだけで食べられるように、銀鱈は西京味噌の味噌だれに漬けこんでおく。
前回は漬物だったから、今回はにんじん、大根、きゅうりをスティック状にしてピクルスに。
できあがったものを次から次へとタッパーに入れると、なかなか壮観な眺めだ。
やっぱり、こういうときは料理をするに限るなぁ。
食欲は出なかったけれど、調理の合間に少しつまんだからいいや。
壁の時計を見あげると、いつのまにか夜の十二時前を指している。
さすがに寝ようと思ったとき、スマホが震えた。
【寝た?】
吉見さんからのメッセージ。私はスマホに飛びついて返信を打ちこむ。
【起きてるよ。ご飯作ってた】
【じゃあ、開けて】
開けて? 首をかしげると同時にインターホンが鳴る。モニターを見た私は、驚きのあまり言葉を失った。
つんのめるようにして玄関に出、ドアを開ける。
スーツにコートを羽織った吉見さんが、吐く息を白くして立っていた。かたわらには、黒のキャリーケースとビジネスバッグ。
「東京は寒いな」
吉見さんの吐く息が、また白く染まる。
私は目を丸くしたまま、吉見さんをドアの内側に入れた。
「なんでいるの……?」
「終電の新幹線乗った」
「でも、今日は会食だって言ってたよね……?」
「急用あるって、途中で帰った」
「ええ? 急用って? 今からどこか行くの?」



