手のひら大の丸型のお弁当箱の蓋を開けると、花梨(かりん)ちゃんが飴玉みたいな目をさらに大きく見開いた。

陽彩(ひより)さんのお弁当、今日もかわいい。これいつも自分でやってるんですか? 女子力高ーい!」
「毎日は無理だけどね。今日は時間があったから」

 今日のお弁当は三色弁当だ。
 ピンクは桜でんぶ、黄色は錦糸卵。それから茶色ではなく緑。さっと湯がいて醤油とみりん、胡麻油を絡めたほうれん草は、われながら鮮やかな色に仕上がった。うん、今日も割といい感じ。
 四月に入ったので、今日のお弁当のテーマはお花見にしてみた。
 錦糸卵のエリアには、かまぼこで作ったピンクの花びらがひとひら。ちょっとした遊び心をひと匙まぜるのも、私のお気に入り。
 ちなみに服装ともテーマを揃えている。
 今日の私は、薄黄色のブラウスに、ボトムスはうぐいす色のパンツだ。ローヒールのローファーはピンクベージュ。
 お弁当箱の中身もファッションも春満開だけど、今日はあいにく花冷えで午後からは雨の予報も出ている。
 残念ながら、桜は週末までに散ってしまいそう。なんて、関係ないことを考えていちゃいけなかった。
 同僚との食事では、決して気を抜けない。細心の注意を払わないと。
 隅々まで神経を行き渡らせながら箸を動かしていると、花梨ちゃんが目をキラキラさせていた。

「陽彩さんは食べる姿も慎ましいっていうか、少食で上品ですよね。奥ゆかしくて、お嬢様みたい。陽彩さん、モテそうです」

 新卒で中堅の設計事務所に入社して今年で四年目。
 社員は七十名ほどで、そこそこの規模だと思う。際立った特徴はないけれど、社員はベタベタしすぎず、そこそこアットホーム。
 ここ二、三年、新入社員が入ってこなかったこともあり、私もどちらかといえば若手としてかわいがってもらっているとは思う。