──あの頃の私は、
恋人として付き合いながらも、彼が何でも持っていて“別世界”の人間のような軋みを感じていた。
でも実際の彼は、必死に“完璧な自分”を演じていただけだったのかもしれない。
「今は、さ……」
晴和さんは、私を見た。
「ちゃんと、素直に言葉にしようと思ってる」
「うん」
「順番を間違えても、気持ちだけは正直でいたい」
その視線は、私に向かって真っ直ぐで……昔よりもずっと不器用で、ずっと誠実だった。
「……そっか」
それだけ言って、私は夜景に目を戻した。
でも胸の奥で、何かが静かにほどけていくのを感じていた。
──この人は、変わったんだ。
完璧じゃなくてもいいと、ようやく思えるようになったんだ。
そう思った瞬間、
『結婚』という言葉よりも、『一緒に歩く』という未来が、少しだけ現実味を帯びた気がした。
屋上庭園を出て、施設の中をゆっくり歩く。
平日の夜は人がまばらで、さっきすれ違ったカップルに自然に目がいってしまう。
──昔はよく繋いでいたな。
なんて思い出していた。
私の隣を歩く彼は、肩が触れそうで触れない、微妙な距離。前よりも随分と距離は縮まった。
ふいに彼の手が、視界の端に入る。
私が一歩近づけば、指が触れてしまいそうで──でも、なんだかそれが怖くて、歩幅を揃えて歩くことしかできない。
心なしか晴和さんも、何度か私の手をちらりと見ている気がした。でも、彼から触れてくることはなかった。
──触れたら、戻れなくなる気がする。
一度繋いだら、きっとあの頃の気持ちになる。それは今の“本当の私の気持ち”なのか、分からなくて怖い。
ただ流されてるだけなんじゃないか。そう思ってしまう。
商業施設の通路を抜けて、駅へ向かう外の歩道に出た。
夜風が強くなって、吹き抜ける風に思わず肩をすくめた。
「寒い?」
そう言って、晴和さんが歩く速度を緩める。
「……うん、少し」
──その瞬間だった。
ふいに、彼の小指が、私の手の甲に触れた。
偶然なのか、わざとなのか分からない、ほんの一瞬の出来事。びくっと心臓が跳ねる。
それを察してか、彼はすぐに手を引っ込めた。
まるで、私の反応を探っているみたいだ。
──色々、過去を考えすぎだったのかも知れない。
数歩進んで、私は足を止めた。
「……晴和さん」
「ん?」
言葉にしないと、きっとこのまま何も変わらない。
そう思って、深く息を吸うと、片手を差し出した。
「……繋ぐ?」
一瞬、彼の目が見開かれた。うんと頷くと次の瞬間──目を細めて驚くほど優しく、笑った。
「いいの?」
コクリと頷くと、彼はゆっくりと手を差し出した。
指先が震えているのは、気のせいではない。彼も緊張しているのだ。
ふわっと指先同士が触れると、指を絡ませ合う。それだけで、胸がいっぱいになった。
「……久しぶりだね」
「うん」
歩き出すと、自然と歩幅が揃う。
なんだか恋人みたいだ、なんて。
でも恋人と言う言葉は、まだ使えない。
だけどもこの一歩は、確実に前より彼に近づいた証のような気がした。
恋人として付き合いながらも、彼が何でも持っていて“別世界”の人間のような軋みを感じていた。
でも実際の彼は、必死に“完璧な自分”を演じていただけだったのかもしれない。
「今は、さ……」
晴和さんは、私を見た。
「ちゃんと、素直に言葉にしようと思ってる」
「うん」
「順番を間違えても、気持ちだけは正直でいたい」
その視線は、私に向かって真っ直ぐで……昔よりもずっと不器用で、ずっと誠実だった。
「……そっか」
それだけ言って、私は夜景に目を戻した。
でも胸の奥で、何かが静かにほどけていくのを感じていた。
──この人は、変わったんだ。
完璧じゃなくてもいいと、ようやく思えるようになったんだ。
そう思った瞬間、
『結婚』という言葉よりも、『一緒に歩く』という未来が、少しだけ現実味を帯びた気がした。
屋上庭園を出て、施設の中をゆっくり歩く。
平日の夜は人がまばらで、さっきすれ違ったカップルに自然に目がいってしまう。
──昔はよく繋いでいたな。
なんて思い出していた。
私の隣を歩く彼は、肩が触れそうで触れない、微妙な距離。前よりも随分と距離は縮まった。
ふいに彼の手が、視界の端に入る。
私が一歩近づけば、指が触れてしまいそうで──でも、なんだかそれが怖くて、歩幅を揃えて歩くことしかできない。
心なしか晴和さんも、何度か私の手をちらりと見ている気がした。でも、彼から触れてくることはなかった。
──触れたら、戻れなくなる気がする。
一度繋いだら、きっとあの頃の気持ちになる。それは今の“本当の私の気持ち”なのか、分からなくて怖い。
ただ流されてるだけなんじゃないか。そう思ってしまう。
商業施設の通路を抜けて、駅へ向かう外の歩道に出た。
夜風が強くなって、吹き抜ける風に思わず肩をすくめた。
「寒い?」
そう言って、晴和さんが歩く速度を緩める。
「……うん、少し」
──その瞬間だった。
ふいに、彼の小指が、私の手の甲に触れた。
偶然なのか、わざとなのか分からない、ほんの一瞬の出来事。びくっと心臓が跳ねる。
それを察してか、彼はすぐに手を引っ込めた。
まるで、私の反応を探っているみたいだ。
──色々、過去を考えすぎだったのかも知れない。
数歩進んで、私は足を止めた。
「……晴和さん」
「ん?」
言葉にしないと、きっとこのまま何も変わらない。
そう思って、深く息を吸うと、片手を差し出した。
「……繋ぐ?」
一瞬、彼の目が見開かれた。うんと頷くと次の瞬間──目を細めて驚くほど優しく、笑った。
「いいの?」
コクリと頷くと、彼はゆっくりと手を差し出した。
指先が震えているのは、気のせいではない。彼も緊張しているのだ。
ふわっと指先同士が触れると、指を絡ませ合う。それだけで、胸がいっぱいになった。
「……久しぶりだね」
「うん」
歩き出すと、自然と歩幅が揃う。
なんだか恋人みたいだ、なんて。
でも恋人と言う言葉は、まだ使えない。
だけどもこの一歩は、確実に前より彼に近づいた証のような気がした。



