だからなるべく今日は晴和さんと話したくない、そう思っていたけれど、運悪くトイレ前で鉢合わせしてしまった。
「そろそろ原さん帰るよ。最終の書類の確認だけだから、すぐ終わる」
「そうですか」
「それで最後は莉佳子にも送ってほしい。一目で良いから会話したいって」
彼に悪意は無いだろう。仮にも昨日会食をした仲だから、関わらないことの方が不自然だ。
わかってはいる、なのだけれど。
「……昔、婚約の話があったって、随分噂ですね。こんなに広く知られてたとは知らなかった」
言葉にした瞬間、心臓が跳ねた。
晴和さんは少しだけ驚いた顔をして、それから困ったように首を傾げて微笑む。
「……だってもう、終わった話だから」
昨日からずっとその一言で、全てを片付けようとする。
「もう一回聞く。あの頃であっても、言う必要、なかった?」
問いかけると、彼は一瞬だけ視線を逸らした。
「だって……心配させたくなかったんだ」
──ああ。そう言って、私に何も“選択肢を与えない”
いつも彼は、こういう手段で私を追い詰める。
「そういうの、私が決めることじゃないんですか?」
声が震える。
「守ってるつもりで、私を蚊帳の外に出して、思い通りにしたかったんですね」
そう吐き捨てるように言うと、振り切るように自分の席に戻った。
俯く顔を少しだけ上げると、なぜか彼の方が傷ついた顔をしているようだった。
そして本当にしばらくすると、原さんは応接室から出てきた。
昨日の会食メンバーだった先輩に呼ばれると、「下のホールまで送って欲しい」と頼まれる。
原さんは「咲倉さん、昨日はどうもありがとう」とにっこりと微笑む。それがまた余裕のある感じで、私は笑顔を作りながらも心の中は悔しさで一杯だった。
彼女が悪いわけではないのに。
でも私が彼女の立場だったら……なんて醜い考えも浮かんでしまう。
──そしたら別れなくて済んだのだろうか。
「そろそろ原さん帰るよ。最終の書類の確認だけだから、すぐ終わる」
「そうですか」
「それで最後は莉佳子にも送ってほしい。一目で良いから会話したいって」
彼に悪意は無いだろう。仮にも昨日会食をした仲だから、関わらないことの方が不自然だ。
わかってはいる、なのだけれど。
「……昔、婚約の話があったって、随分噂ですね。こんなに広く知られてたとは知らなかった」
言葉にした瞬間、心臓が跳ねた。
晴和さんは少しだけ驚いた顔をして、それから困ったように首を傾げて微笑む。
「……だってもう、終わった話だから」
昨日からずっとその一言で、全てを片付けようとする。
「もう一回聞く。あの頃であっても、言う必要、なかった?」
問いかけると、彼は一瞬だけ視線を逸らした。
「だって……心配させたくなかったんだ」
──ああ。そう言って、私に何も“選択肢を与えない”
いつも彼は、こういう手段で私を追い詰める。
「そういうの、私が決めることじゃないんですか?」
声が震える。
「守ってるつもりで、私を蚊帳の外に出して、思い通りにしたかったんですね」
そう吐き捨てるように言うと、振り切るように自分の席に戻った。
俯く顔を少しだけ上げると、なぜか彼の方が傷ついた顔をしているようだった。
そして本当にしばらくすると、原さんは応接室から出てきた。
昨日の会食メンバーだった先輩に呼ばれると、「下のホールまで送って欲しい」と頼まれる。
原さんは「咲倉さん、昨日はどうもありがとう」とにっこりと微笑む。それがまた余裕のある感じで、私は笑顔を作りながらも心の中は悔しさで一杯だった。
彼女が悪いわけではないのに。
でも私が彼女の立場だったら……なんて醜い考えも浮かんでしまう。
──そしたら別れなくて済んだのだろうか。



