再会は小さなぬくもりと一緒に

祖父の家は繁華街から一本入った道にある。
新しいマンションや住宅が立ち並ぶ通りを抜けると、昔ながらの古い一軒家が並ぶ一角に出る。そんなよくある『東京の下町』の風景の一角に祖父の家がある。


「来たよ〜ハル!」
玄関を開けると、猫のハルがお腹を出して寝転がっていた。
典型的な茶トラのまるどら(白さがない)でわがままボディがチャームポイント。誰でも人懐っこく、「食いしん坊・甘えん坊」な性格はTHE茶トラ猫といったところだろう。
もう拾って八年は過ぎたので、立派なおじさん猫。だから祖父だけでなく、こっちの健康にも気をつけなけばいけなくなってきた。
 

「ハル、ごはんにするね」
缶詰を開ける音に反応して、ハルがくるくる辺りを徘徊する。そしてフードを盛った皿を定位置に置くと、待ち望んでいたと言わんばかりに食べ始めた。


「ハル、おじいちゃんが入院するんだって。だからしばらく私が来るね……無事に帰って来れるといいんだけどね」
食べ続けるハルに声をかけると、一瞬尻尾がピンと伸びた……ような気がした。それでも食べる口を止めることはない。


「じゃあ私も何か食べるわ」
言っても無駄だろうが、ついついハルに向かって話しかけてしまう。
冷蔵庫を開けると出来合いの惣菜の揚げ物と、漬物と納豆が入っているだけだった。

(そりゃ倒れるわ……)
最近忙しくてここに来れなかったことが悔やまれる。
恐らく健康な食生活とは無縁な生活を送っていたのだろう。その証拠に、シンクには空のグラスが置かれてある。いつもウイスキーを水割りで飲む用のグラスだ。


まあ過ぎたことを言っても仕方ない。
せっかくなので揚げ物を頂くことにして、電子レンジで温めてる間に戸棚からカップラーメンを取り出した。

カップラーメンにお湯を入れようとしたところ、電子レンジの温めが終わった。ピーピーと終わりを告げる音が鳴ると、それに反応してハルもやってくる。

「食べ終わった?でもあげないよ」

そんな言葉も気にせずにハルはまとわりついてくる。
仕方なく背中を撫でると『もう少しちょうだい〜』とアピールするようにお腹を見せた。

「やっぱり食いしん坊だねぇ」
たぷたぷするお腹を突っつくと、あのガリガリだった頃が夢のよう。あの頃私達は、どうにか太らせようと頑張っていたのだ。


「ねぇハル、どうしたらいいのかな」
言葉なんて通じるわけはないけれど。祖父が居なくなったらどうしようと言う思いと、嫌でもあの彼のことを思い出してしまう。

ハルは忘れたのだろうか。
でも忘れられるなら、きっとその方がいいだろう。

都合良く脚色された初恋なんて、きっと忘れた方がいい。
だけど一度再燃した思いは、完全には消えてくれない。


何も知らずに甘えるハルを、そっと抱き上げる。
暖かくて柔らかい温もりだけが、私を癒してくれているようだった。