再会は小さなぬくもりと一緒に

──正直、仕事はすごく楽しい。
やり甲斐もあるし、先輩や後輩にも恵まれていると思う。彼をはじめ先輩は方は優しくて細かな所までフォローしてくれるし、鈴木さんもしっかりと仕事をこなしてくれる。

ただ唯一の嫌いなことと言えば……『爆弾処理』と言われるあの仕事だろう。


「……咲倉さん、お電話です」

鈴木さんのこの一言で全てを察し、一度深く深呼吸して受話器を取る。
案の条、向こうは痛くなる言葉を躊躇なく投げる。


『この未来図、全然“賑わい”が伝わらないんだけど? 何?本当に内容理解してるの??』

朝一の電話で気分が沈むことはあっても、ここまで頭が痛くなるのは久しぶりだった。

黒江さんと言う買収した土地の地主──一応彼が代表を会社は共同プロジェクトに名を連ねている が、またクレームを出してくる。
それもまた、わざわざ私達を狙って。ちょうど会議で上の者が席を外すタイミングを狙ってくる。


今日も再開発の未来図案について、言ってもいない指示を「前に伝えた」と押し付けられ、結局は「全面修正しなきゃ認めない」という無茶ぶりで押される。

こういう『爆弾処理』の仕事は、一案件につき一人は必ず出てくるもので……特に私達の部署は『発注元』という責任があるので、クレームだろうと要望は一旦預からなければいけない立場だ。今まで私は下っ端だったので、先輩に投げることができた。だけど、もう私の他に対応できる人は居ない。


私は受話器を片手に、謝りながら改善点を聞き出していく。
無茶振りであることはわかってはいるが……何故か今日はやたら長く話が続き、三十分も経過。次第に威圧感のある声に疲弊し、指先が震える。


「はい、はい……」

しっかりとメモをしなきゃいけないのに、圧に負けて字がぐちゃぐちゃになっていく。でも途中で会話を止めようものなら、余計に刺激してしまう。


「それで、えっと……」
「すいません。お電話代わります、伊賀上です」

不意に後ろから手が伸びてきて、受話器が取られた。
振り向かなくてもわかる。晴和さんだ。

私がゆっくり顔を向けると、しーっと人差し指を唇に押し当てた。
そのまま何食わぬ顔で私のペンを取って、メモを走らせる。

「はい、はい……いやぁその点についてはご指摘通りですが……それで本当に問題ありませんか?」

受話器越しの黒江さんの声はさすがにトーンダウンして、むしろ彼に押されているようだ。
穏やかに聞こえるけれど──ずんと重く芯の通った声が、会話の主導を完全に変えた。ネチネチと言ういつもの黒江さんらしさが消えていく。
そしてすぐに電話は切られた。