再会は小さなぬくもりと一緒に

「もう遅いからさ、ご飯にしようよ。駅前のお弁当、買ってきたよ」
「ありがとうございます、伊賀上さ……」

 そう言いかけると、彼が軽く遮る。

「あのさ、名前」

何だ?と思って顔を見ると、少し困ったような顔をしていた。

「前みたいに、呼んでよ」

私は一瞬、表情が強張る。きちんとした名前で呼ばなければ、別の意味で『引き摺られそう』で怖い。けれど、彼は続けた。

「家では上司じゃないから、さ」


そう言われると仕方ない。家でも休まらないのは可哀想だろう。
少し沈黙のあと、私は観念したように口を開いた。

「……晴和、さん」

 その瞬間、彼はほんの一瞬だけ切なそうに目を細めた。懐かしさと、今の距離を感じる両方の表情だった。


「じゃあ、ご飯、食べようか」

晴和さんの柔らかな声が響く。そして私達は二人で居間へ向かった。
テーブルの上に弁当を並べると、ハルがダイニングテーブルを見上げながら、ニャーニャーと鳴いている。


「それでも絶対手を出さないのが凄い」

箸を割りながら、彼はじーっとハルを眺めている。


「多分、こゆきが徹底的にしつけてたからですよ。あれはまさに教育ママだったかと……」

昔を思い出して遠い目になる。
彼女は勝手に食べ物を漁ろうとしているハルを徹底的に叱り、躾けていた。多分彼女がいなければ、もっとデブ猫まっしぐらだったはずだ。

「俺はこゆきに嫌われてたからなぁ」

晴和さんはそう苦笑する。
たしかに、こゆきは若い男の人が苦手だった。特に彼には、シャーシャー言って絶対触らせなかったのだ。