再会は小さなぬくもりと一緒に

そして席に戻って、携帯とにらめっこしながらコーヒーを飲む。
ちらっと顔を出した猫の可愛さに、少しテンションが上がった。


「すいません、伊賀上さん。イノーシング株式会社の伊賀上社長よりお電話です」


休憩時間が終わると同時に電話が鳴り、彼に取り次がれた。それを私の隣の席の後輩、鈴木さんが聞き耳立てて聞いていた。

「あの咲倉さん、やっぱり伊賀上さんって……」
「うん、あの人御曹司だよ。イノーシング株式会社の、社長の息子」
「えっ、知ってるんですか?」
「実はね、うちの祖父がイノーシング株式会社の会計士してて、それで知ってたの」
「えっ?じゃあ咲倉さんって……」

まさかの縁故入社のお嬢様なのか、という目が向けられる。


「そんなわけない。勘違いしないで欲しいんだけど、交流があったのは祖父世代だから、私が知ってるのは名前だけ。その祖父もかなり早めに大手を退職してるから、私は権力なんてないし恩恵にあやかれなかった可哀想な人なんですよ」

そう自虐して笑うと、鈴木さんは愛想笑いで返した。

確かに祖父はそこそこ地位のある人ではあったが、それも遥か昔の話。
母が結婚する前には、病気がちだった祖母の為に祖父は会社勤めを辞めたんだとか。収入は格段に落ちたらしいが、まぁそんな『愛妻家』な面がウケて気に入られていた人も多かったと。彼の祖父や父もその一人だったのだと聞いたことがある。


「でも縁故入社でも、伊賀上さんのような人がマネージャーでよかったですね」

彼の物腰柔らかな声がフロアに響く。低く凪のような声は、私達に“大丈夫”と言っているような安心感がある。

(そういうところ、好きだったんだよね……)

 
忘れたはずの昔の恋が、今になって胸が痛む。
どうして私はもっと向き合えなかったのか。そんな後悔が押し寄せてくる。

だけど今は感情に浸っているわけにはいかない。
私はコーヒーを飲み干すと、気合を入れてキーボードを打つ作業に戻った。