※二人の結婚後、とうとうその日はやってきた。その瞬間を描きました。

***

雪が舞う頃思い出す。

あの雪の日、二人で泊まった旅館のあの景色。

部屋の中の空気。

彼の横顔。

彼の言った言葉。

かき消された本音。

そして、夫婦となった日。

* * *

ずっと最近感じていた違和感がある。

おそらく予感は当たっている。

事実として受け止める勇気がまだなかった。

でも、先延ばしにしても待ってはくれない。

だから私は勇気をだした。

その日、河内さんは県外に泊まりで仕事に行っていて、私は一人留守番をしていた。

一人きりの夜。

いつもは平気なのに、不安だ。

私は自分の鞄の中からある物を取り出した。

心臓が高鳴る。

そして、真実を確かめようとした。


「やっぱり……」


手足が震えた。

色々な不安が襲ってきた。

どんなことがあっても私はここまで頑張ってきたけど、こればかりは気合いでどうにかできるのか自信がない。

今すぐ彼に連絡するか、帰ってきてから話すか……。

仕事に支障が出たら大変だ。

家に帰ってきてから話そう。

その時スマホに着信があった。

河内さんからだった。

「お疲れ様です」

「今日はどうだった?体調はどう?」

最近寝込んでいることが多かったから、河内さんはずっと心配してくれていた。

「大丈夫です……」

「どうした?無理してないか?」

帰ってきてから相談しようとしていたのに、声を聞いていたら気持ちを抑えられなくなってしまった。


「河内さん……私、妊娠しているみたいです」


暫く沈黙が続いた。

「あとでまた連絡する」

その後電話が切れてしまった。


それだけ……?


仕方ないけど、私がどうにか頑張るしかないんだけど、せめて他に言葉が欲しかった。

仕方なくそのまま眠ろうとした。

* * *

寝てから何時間か経った後、鍵が開く音が聞こえた。

びっくりして起きた私はベッドの側に隠れた。

「優美……?」

河内さんの声だった。

え?

私が立ち上がると河内さんがかなり驚いていた。

「何で隠れてるんだよ」

「何でこんな時間に帰ってきてるんですか!?」

「一人にしたくなかったからだ」

河内さんは片道4時間かけて自力で車で帰ってきた。

嬉しくて泣いてしまった。

河内さんは優しく抱きしめてくれた。

「優美、二人で頑張ろう」

「はい……私頑張ります」

この人がいれば私は頑張れる。

そして、私は河内さんの腕の中で眠りについた。

私の一番安心できる場所だ。

* * *

次の日病院に行ったら、やはり妊娠していた。

写真を見ながら、予想もつかない未来に思いを馳せていた。

男の子なのか女の子なのか。

この子の将来はどうなるのか。

私はちゃんとしたお母さんになれるのか。

家に帰ってきた途端、私は緊張の糸が切れたのか、眠ってしまった。

その時、頭を撫でられているような感覚があった。

いい匂いがして目を覚ますと、料理が並べられていた。

「え、これ河内さんが作ったんですか?」

お店みたいな料理。

「記念日だからな」

仕事で忙しい中、こんなことまでしてくれるなんて、私は何て幸せものなんだろう。

「河内さんお仕事大丈夫なんですか?」

「心配しなくていい。俺に何かあっても会社が回るようにはしてある」

それを聞いて少し安心した。

河内さんの作ってくれた料理を食べて、二人でソファでのんびりしながら手を繋いでいた。

「こうやって二人でいるのも、数ヶ月で終わるのか」

「そうですね。河内さんはいいお父さんになれますよ」

「……努力する」

河内さんが少し緊張した面持ちで微笑む。


窓の外に雪が見える。

北海道とは違って、うっすら舞い、地面ですぐに溶けてしまう雪。

来年は三人で見られるかもしれない。

そしてもっと大きくなったら、この子もあそこに連れて行ってあげよう。

私達の思い出の地へ

──fin